シリアのアサド政権崩壊を受け、最大の後ろ盾となっていたロシアの中東での影響力低下が指摘されている。一方、ある思惑からアサド政権を見捨てたとの見方も浮上している。
■シリアに確保していた“ロシアの権益”
シリアに確保していたロシアの権益 この記事の写真ロシアはアサド政権にとって、最大の後ろ盾ともいえる存在だった。
2011年の民主化運動「アラブの春」をきっかけに、シリアでは内戦が勃発。以降、ロシアは反体制派をテロリストとみなし、アサド政権を支持してきた。
2015年には、ロシア軍が空爆などで軍事介入を開始。アサド政権側が劣勢だった戦況を好転させるなどしてきた。
この軍事介入を機に、2017年にロシアは2つの基地の49年間に及ぶ租借権をアサド政権から得ていた。
そのうちの一つがフメイミム空軍基地で、アフリカに民兵や物資などを展開する中継拠点。もう一つがタルトゥース海軍基地で、西ヨーロッパ諸国を牽制(けんせい)する地中海唯一のロシア海軍基地。ともにロシアの世界戦略に欠かせない重要拠点となっている。
■アサド政権崩壊の陰で “うごめくロシア”
アサド政権崩壊の陰で…ロシアのうごめき今回のアサド政権崩壊の陰では、ロシアがある思惑を持ってうごめいていたという。
反体制派が首都への進攻を始め、政府軍はほぼ無抵抗で後退。そして、首都が制圧された8日早朝には、アサド大統領はシリアを脱出し、モスクワに亡命した。
9日、ロシア大統領府ぺスコフ報道官は「プーチン大統領が自らアサド氏の亡命受け入れを決断した」と話している。
中東の動きなどを報道しているセルビア・タイムズによると、ロシア政府はシリアのすべての反体制派集団と連絡を取っていると発表。シリアの状況を綿密かつ慎重に監視しているという。
また、BBCの9日の報道によると、反体制派はロシア軍基地の安全を保証したという。ただ、この裏には政権崩壊に機敏に対応し、ロシアが権益確保に動いたともみられている。
■苦境に立つロシアの事情 ウクライナを巡り?
苦境に立つロシアの事情その裏には、苦境に立つロシアの事情があるようだ。
2019年時点でロシアは50〜60機の戦闘機などがシリアに対して展開可能だったが、8日のノーバヤガゼータ・ヨーロッパによると、基地に残っている戦闘機は7〜12機になっているという。
臨戦態勢の地上部隊や特殊作戦部隊は、すでにウクライナに再配置されていて、反体制派の攻勢に対してアサド政権を支えるための部隊や武器などは存在しなかったという。
プーチン大統領の元スピーチライターで、現在は反プーチン派の論客として知られるガリヤモフ氏は8日、SNSで「ロシアはウクライナで泥沼にはまり込んでいるため、アサド氏を助けることができなかった」と投稿している。
ロシアの独立系サイト・ゴスドゥムスカヤは8日、「次期米大統領のトランプ氏がプーチン氏と合意し、ロシアはシリアから手を引き、その見返りにウクライナの占領地を手に入れることになっている。そうした取引があったのではないか」と報じた。
次のページは
■トランプ氏とプーチン氏の関係は?■トランプ氏とプーチン氏の関係は?
トランプ氏とプーチン氏の関係は?現在、ウクライナへの攻勢を強めているロシア。来月、トランプ次期大統領の就任で、情勢はどう変わるのか。プーチン大統領は元々、トランプ氏と関係が深いとされている。
ワシントン・ポストによると、2人はトランプ氏が1期目終了後も最大で7回、プライベートで電話していた可能性があるという。
トランプ氏に関しては、「ロシアマネーの影」という話も出ている。フィナンシャル・タイムズによると、トランプ氏が1990年代〜2000年代初頭に不動産ビジネスが危機に陥った際、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)が支援していたのではないかという話も出ている。
元時事通信社モスクワ支局長で、ソ連崩壊を現地で取材した拓殖大学・客員教授の名越健郎さんによると、ロシア側に弱みを握られているとの説もあるという。
■「またトラ」で…強硬姿勢を加速させる
「またトラ」で…強硬姿勢を加速させるプーチン氏こうしたなかで、今ロシアはウクライナへの攻勢を強めている。
ウクライナ国防省によると、北朝鮮兵士をウクライナの前線に投入しているという。また、新型中距離弾道ミサイル「オレシュニク」でウクライナのインフラ施設を破壊するなどもしていて、さらにタス通信によると、核兵器の使用条件を示した「核ドクトリン」を改定し、戦争当事国の支援国も核攻撃の対象とした。
こうした強硬姿勢の裏に何があるのか。
次のページは
■強硬姿勢を強める背景に“最側近”の復権か■強硬姿勢を強める背景に“最側近”の復権か
強硬姿勢を強める背景に“最側近”の復権かロシアの独立系サイト・ゴスドゥムスカヤによると、政権内で強硬派パトルシェフ氏の影響力が再び高まってきたという。
パトルシェフ氏はプーチン大統領の最側近とも言われる人物で、プーチン氏と同じサンクトペテルブルク出身で同じくKGB出身と共通点も多い。
ロイター通信によると、パトルシェフ氏はロシアの国家安全保障会議の書記として16年間政治の中枢にいたが、今年5月の人事で造船業を監督する大統領補佐官に降格していたという。
怪僧ラスプーチンのような存在ゴスドゥムスカヤによると、パトルシェフ氏は「プーチン氏を取り巻く陰謀」を本人に信じ込ませることに成功し、再びプーチン大統領に接近した可能性があるという。そして、プーチン大統領に対し、強硬路線を堅持するよう説得したという。
そんなパトルシェフ氏は今、帝政ロシア末期に暗躍した怪僧ラスプーチンのような存在になっているとも言われている。
ラスプーチンは皇帝を意のままに操ったとされる人物で、パトルシェフ氏は今そうした「影の実力者」と目されているようだ。
次のページは
■停戦に動き出す アメリカ・トランプ氏■停戦に動き出す アメリカ・トランプ氏
停戦に動き出すアメリカ・トランプ次期大統領アメリカの次期大統領・トランプ氏はウクライナ情勢を巡り、停戦交渉に向けた動きを始めているという。
トランプ氏は大統領選後、初の外遊先としてフランス・パリを選んだ。7日、パリでフランスのマクロン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領と3者会談を行った。
トランプ氏は会談後、SNSに「早急な停戦と和平交渉の開始が必要だ。私はウラジーミル(プーチン大統領)をよく知っている。彼が動く番だ」とロシアに即時停戦と和平交渉への参加を呼び掛けた。
では、トランプ氏はどのような形での停戦を考えているのか?側近が提案している「戦争終結計画」を見ていく。
■トランプ氏の側近が提案「戦争終結計画」
トランプ氏の側近が提案「戦争終結計画」トランプ氏が新設するウクライナ・ロシア担当特使のキース・ケロッグ氏らの「戦争終結計画」では…。
まず交渉開始について、ウクライナに対しては「和平交渉に応じなければ、アメリカの武器提供を停止」と圧力をかけ、さらにロシアに対しては「交渉を拒否すれば、ウクライナへのアメリカの支援を強化する」と警告し、両者にプレッシャーをかけることによって、交渉のテーブルに着いてもらうおうという計画である。
そして、領土に関しては、現在の戦線に基づいて戦闘を停止するといい、実現すればウクライナ内のロシアの実効支配を事実上認めることになるという。
トランプ次期政権の和平案が明らかになっていくなかで、ウクライナの主張にも変化が起きているという。
■ゼレンスキー大統領は方向転換?
ゼレンスキー大統領は方向転換?ゼレンスキー大統領はこれまで「全領土奪還」として抗戦を続けてきたが、先月29日のイギリス・スカイニュースでは、ウクライナがNATOに加盟できれば、ロシアとの停戦協定に合意する可能性があると報じている。
一部領土を一時的に放棄し、外交交渉で返還を求めるなど方針転換ともとれる発言をしたという。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年12月11日放送分より)
この記事の写真を見る鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。