親子2代で半世紀以上にわたってシリアで圧政を敷いてきた、アサド政権が崩壊しました。反体制派の反撃からわずか10日。歓喜の一方で、今後への懸念も指摘されています。
■親子2代で独裁政権 市民は歓喜
独裁政権の面影は、消え去っていました。
この記事の写真 CNN ウォード首席特派員「この国境検問所には兵士や警備隊がいたはずですが、今や政府当局者は誰一人いません。“通れ”と親しげに合図してくれる人がいるだけです」
「これは緑の星が2つなので旧体制の国旗ですが、地面に捨てられていました」
反政府勢力が首都ダマスカスを制圧。父の代から半世紀続いたアサド一家の支配は終わりを告げました。広大な大統領官邸のロビー。アサド大統領らの姿はどこにもありません。
男性「神に感謝する。若者たちの力で独裁者はいなくなった」
私邸のガレージには高級車が並び、フェラーリが何台も残されていました。市民が押し寄せ、次から次に略奪していきます。
『HTS(シャーム解放機構)』を中心とする、反政府勢力が侵攻を始めてから10日余り。シリア国内の主要都市が北から次々に抑えられ、異例の速さで首都ダマスカスに到達しました。
シャーム解放機構は、過去に国際テロ組織アルカイダや、イスラム国とも関係が指摘された組織です。それでも国民の多くは独裁政権打倒を望みました。
男性「勝利の喜びと自由を感じる。もう俺は自由なんだ」
「もう恐怖も圧制もありません。我々は1つになり、最高の国をつくるでしょう」
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■「中東地域の歴史的転換点」反政府勢力の指導者は大歓声で迎えられます。
HTS(シャーム解放機構)ジャウラニ指導者「この勝利はイスラム世界に新たな章を開く。中東地域の歴史的転換点だ」
アサド大統領は家族とともにモスクワに到着。政権を支援してきたロシアは、亡命を受け入れたと発表しました。シリア国内に残る首相も政権明け渡しを宣言しました。
アメリカもシリアを後押しすると表明しています。
アメリカ バイデン大統領「アサド政権は多くの罪なきシリア国民を苦しめ殺害した。アメリカは人道援助などを通じて、10年を超える戦争とアサド政権からの復興を支えていく」
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■政権運営は不透明 周辺国は…しかし、政権移行を進めるためには、まだまだ課題が山積みです。そもそも誰が政権を率いていくのか、国内の他の勢力とどう折り合いをつけていくのか、具体的なことは何も決まっていないため、混乱は必至です。
加えて、隣国との関係も。イスラエルは、シリアとの間に設けていた軍事的な“緩衝地帯”を掌握するよう動き出しました。
イスラエル ネタニヤフ首相「暴君アサド政権の崩壊は大きなチャンスながら、大きな危険もはらんでいます。我々はイスラエル軍にシリア側が放棄した陣地を引き取るよう命じ、国境近くに敵対勢力が根付かせないようにしました」
独裁政権下でシリアに隣接する国に避難していた人は約550万人。日本時間午後6時過ぎ、ヨルダンとの国境には故郷に戻ろうとする人たちがいました。
23歳(Q.待っている人は)
「家族と仲間たちです。尊厳や自由を求めてきた全シリア国民の勝利です」 20歳
「爆撃と戦争しか覚えていません。ミサイル攻撃で家が破壊されていた。新たな国づくりを手伝いたい。やっと自由を取り戻した」
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■10日余りで“首都制圧”なぜ?シリアの隣国は、ヒズボラが拠点を置くレバノン、その南にはイスラエル、北にはトルコ、さらに北にはロシアがあります。アサド政権は半世紀にわたりシリアを支配してきましたが、北部は反政府勢力が占めていました。
反政府勢力は主に3つ。過去にテロ組織との関係性が指摘された『HTS(シャーム解放機構)』は今回、首都制圧の中心的な役割を果たしました。他にもトルコが支援する『シリア国民軍』、アメリカが支援するクルド人が主体の『シリア民主軍』がいます。
攻撃開始から首都制圧まで10日余り、あっという間の政権崩壊でした。この勢いのウラに何があったのか。中東情勢に詳しい、立命館大学・末近浩太教授に聞きました。
末近浩太教授「反政府勢力によって、アレッポや中部の要衝ハマが陥落したことで、政府軍の士気がかなり低下した。だから、ダマスカスの“無血開城”につながったのではないか。また、反政府勢力と政府側のジャラリ首相との間で“略奪を防ぐ”“戦闘の激化を回避する”など、直前に双方が合意に至ったのではないか」
(Q.今後、誰がシリアの政権を握ることになりそうですか)
末近浩太教授「どういう仕組みで新政府が作られていくか、誰が参加するのか、全くの白紙。今は『シャーム解放機構』が発言力を持っているが、クルド人や、国外に亡命しているシリア人の勢力もあり、反政府勢力の中で揉める可能性もある。さらに、イスラエルやトルコなど、シリアの周辺国には“シリアが自分たちにとって都合のいい国になってほしい”との思惑がある。シリア国内外で方向性が定まっていないことが、今後の大きな不安要因になるだろう」
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