オーストラリアの議会で、16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法案が、世界で初めて可決されました。
背景には、オーストラリアで、SNS上のいじめなどの原因により、子どもが亡くなっていることがあります。
■豪州 16歳未満 SNS禁止法案可決で賛否
11月28日、オーストラリア議会上院で、16歳未満のSNS利用を禁止する法案が可決されました。
国レベルで子どものSNS利用を禁じるのは、世界で初めてです。
禁止対象は、X(旧Twitter)やインスタグラム、ティックトックなどのSNSです。
LINEのようなメッセージアプリやゲーム、YouTubeは対象外です。
子どもが利用できないよう対策を怠った運営会社には、最大で約50億円の罰金が科されます。
この記事の写真は23枚 オーストラリアのアルバニージー首相は、「今回の法律で、親子の会話が変わり、その変化は、オーストラリアの子どもたちにとって、害が少なくなり、より良い結果をもたらすことになる」と話しています。
1年後に施行される見込みです。
今回の“SNS禁止法案”について、オーストラリアの国民はどう見ているのでしょうか。
77%の人が法案に賛成、また、SNSの運営会社への厳しい罰則導入についても87%が賛成ということです。
オーストラリアの10代の若者からは、賛否の声です。
【禁止法案に賛成】
11歳の男子児童「SNSは、完全に安全な場所ではない。どれだけ危険か、私たちの脳は理解できていない」 15歳の女子生徒
「昔の子は、手書きの手紙のやり取りをしていたと聞き、かわいいと思った。携帯なしで、もっと遊んだりするべき」
【禁止法案に反対】
16歳の男子生徒「SNSは、現実逃避できる場所。本当の自分になれる。子どもは規制をかいくぐると思うから、効果は疑わしい」 14歳の男子生徒
「この法案は、プライバシー侵害とみなされる可能性がある。政府は、国民の信頼を失うことになる」
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■SNS禁止法案の背景に『いじめ死』 首相「放置できない」■SNS禁止法案の背景に『いじめ死』 首相「放置できない」
このSNS禁止法案の背景です。
複数の調査によると、オーストラリアの10代は、約97%が平均4つのSNSを利用していて、世界で最もSNS利用が広がっている国とされています。
一方で問題も起きています。
情報収集や交流の手段として、若者のSNS利用が増加する中、詐欺や性暴力などの犯罪に巻き込まれるケースが相次いでいます。
また、犯罪に至らなくても、同調圧力にさらされたり、激しい誹謗中傷を受け、自ら命を絶つケースも起きています。
過去にはSNSによる影響で、このような事例もありました。
オーストラリアに住む14歳の女子生徒が、SNSで理想的な体形の人の写真を見て、同じ体形を目指し始めました。
その後、自分の写真を投稿した際に、「お腹が出ている」と1件のコメントが届きます。
これを受け、女子生徒は、食事をとるのをやめてしまいました。
最終的には、体重が約38kgまで落ち入院。
入院中には、心臓が2回止まり、一時は危険な状態に陥りました。
こうした問題以外にも、オーストラリアのアルバニージー首相は、SNS上のいじめなどが原因で子どもを失った親たちと対面したことで、この問題を放置できないと考えたということです。
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■欧米でも未成年のSNS規制の動き 企業への罰金も■欧米でも未成年のSNS規制の動き 企業への罰金も
各国の未成年に対するSNS規制です。
アメリカでは、インスタグラムやティックトックを念頭に、7割にあたる35州で、未成年のSNS利用を規制する法案を検討しています。
このうち12州で法律の制定に向けた動きがあり、実際に制定している州もあります。
例えば、2024年3月、フロリダ州では、SNSのアカウントを14歳未満が取得するのを禁止する法律ができました。
フランスでは、2023年、15歳未満の子どもがSNSアカウントを作る際に、保護者の同意を義務付ける法律が制定されました。
ただ、利用者の年齢の確実な認証が技術的に難しく、施行されていません。
イギリスでは、2023年10月、『オンライン安全法』が成立し、SNSなどの運営会社に対し、利用者の年齢確認を厳格に行い、13歳未満にはアカウントを持たせないことを義務付けました。
規則が破られた場合、企業に対して、日本円で最大約34億円、または世界年間売り上げの10%が罰金として科せられます。
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■SNS禁止法 有効性や年齢確認方法に疑念も■SNS禁止法 有効性や年齢確認方法に疑念も
オーストラリアのSNS禁止法案への懸念の声です。
『フェイスブック』と『インスタグラム』です。
『フェイスブック』と『インスタグラム』は、一部の国や地域を除き13歳以上が登録可能です。
「法案の可決を進める過程において、年齢に適した体験を提供するために業界で既に行われている取り組みや、若年層の意見を十分に精査することなく議論が進められたことには、懸念を抱いている」との見解を示しています。
次に、『X(エックス)』です。
『X』は、13歳以上が登録可能です。
『X』のオーナーのイーロン・マスク氏は、「すべてのオーストラリア国民のインターネットへのアクセスを制御する企みがあるようだ」と、投稿しています。
『ティックトック』です。
『ティックトック』は、一部の国や地域を除き、13歳以上が登録可能です。
『ティックトック』の広報担当者は、「禁止措置により、青少年の皆さんが、コミュニティガイドラインや、安全な保護機能がないインターネットの危険な領域に誘導される可能性が高い。オーストラリア政府は、今後業界と密に連携し、この拙速な措置によって生じた問題を解決することが非常に重要」との見解を示しています。 ユニセフも懸念を示しています。
「SNSの禁止によって、子どもたちは、ますます隠された、規制のないオンライン空間に追いやられることになるだけでなく、幸福に必要不可欠な要素にもアクセスできなくなる危険性がある」
そして、年齢確認の方法に、懸念が指摘されています。
オーストラリア政府は、2025年1月から、SNS業界と一緒に、年齢確認技術の開発に向けた実験を行います。
しかし、デジタルの研究者は、「生体認証や身元情報を基にした年齢認証技術が、確実に機能する保証はない」と指摘しています。
国際大学の山口真一准教授です。
「そもそも、16歳未満の利用禁止というのが、問題の抜本的な解決になるのかなど、課題が多いと感じる。SNSが同世代との重要なコミュニケーション手段となっている中で、禁止措置が孤立感など、精神にむしろマイナスな影響をもたらす可能性もある」
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■日本でもトラブル相次ぐ 「成りすまし」で金銭要求も■日本でもトラブル相次ぐ 「成りすまし」で金銭要求も
日本でも、若い人のSNSトラブルが起きています。
休日のSNS利用時間です。
全年代のSNS利用時間の平均は、1日54.8分ですが、10代は100.3分、20代は115.7分と、平均の2倍、1日2時間近くSNSを利用しています。
SNSで経験したトラブルについて、中学生・高校生を対象にした調査では、「勝手に写真をアップされた」と答えた中学生が、約3割います。
高校生では、半数以上がこういった経験があると答えました。
SNSに「悪口を書かれた」と答えた中学生は、1割強。
高校生では、約2割がこういった経験があると答えました。
街で聞いたSNSトラブルです。
SNSを1日8時間利用している、20歳の大学生「SNSに友達から『幸せアピールがうるさい』など長文で悪口を書かれた。その友達とは縁を切った」 SNSを1日6時間利用している、14歳(中学2年)
「友達は加工してあるけど、私は加工されていない写真をSNSにあげられた」
SNSのトラブルの実例です。
15歳、高校1年生の男子生徒が、ネットゲームで知り合った女の子と仲良くなりました。
ある時、「裸の写真を送ってよ」と言われ、送ってしまいました。
ところが、女の子は誰かが成りすましていたもので、「画像をバラまかれたくなかったら、3万円払え」と脅されました。
トラブルの実例2つ目です。
15歳、中学3年生の女子生徒が、ある時、SNSに知らない男性から「服、可愛いですね」とメッセージが届きました。
その後、「何歳なの?」「どこに住んでるの?」など他愛もないやりとりを始めました。
そのうち、「2人でカラオケに行かない?」「レンタルルームで会おうよ!」など、何度も2人で会おうと誘われるようになりました。
女子生徒は、怖くなり、学校の先生に相談し、SNSのアカウントを削除しました。
日本の対策です。
11月25日、こども家庭庁は、インターネット上の青少年保護に関する検討会を設置しました。
今後、半年程度かけ、諸外国の取り組み事例や有識者のヒアリングなどを経て、課題と論点整理を行う予定です。
三原じゅん子こども政策担当大臣は、
「ネット上のいじめや誹謗中傷など、被害への対応が大きな課題となっている。安全・安心にインターネットを利用できるような環境整備が重要と認識している」としています。 国際大学の山口准教授です。
「青少年保護は重要なテーマだが、高い年齢まで一律にSNS使用を禁止するような対策は、課題も多い。SNS事業者による、機能的対策の強化など多角的な対策を進めて、適切な活用が進むようにすることが大切ではないか」
(「羽鳥慎一モーニングショー」2024年12月3日放送分より)
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