米国旗=米首都ワシントンで2023年11月14日午後、西田進一郎撮影

 米国の首都ワシントンの連邦地裁は21日、ブラジルから米国に密輸された巨大なエメラルドの鉱石をブラジルに返還するよう命じた。評価額10億ドル(1540億円)とも言われる世界最大級(約380キロ)の巨大な宝石は、数奇な運命から「呪われたエメラルド」とも呼ばれている。ただ、米メディアによると、所有権を主張する取引業者は控訴を示唆しており、最終決着にはまだ時間がかかる可能性がある。

 判決や米紙ワシントン・ポストによると、エメラルドは2001年にブラジル北東部バイア州で採掘された。当初から珍しがられていたが、エメラルドとして正当には評価されておらず、1700ドルで購入した商人が、8000ドルで転売。数年間はサンパウロの自動車修理業者が保管していた。

 その後、買い手を探すために05年に米国に持ち込まれた。南部ルイジアナ州ニューオーリンズの倉庫で保管されていたが、05年夏にハリケーン「カトリーナ」による被害で危うく洪水に流されそうになったこともあった。

 西部カリフォルニア州に移された後、09年に管理していた業者が「宝石を盗まれた」と警察に通報。当局が西部ネバダ州ラスベガスの金庫室でエメラルドを差し押さえた。しかし、盗難なのか売却なのか経緯が判然とせず、所有権の認定は難航。民事訴訟の末、15年に西部アイダホ州の宝石商らが「正当な購入者」と認定された。

 ところが、米政府から通報を受けたブラジル政府当局の調査で、宝石が違法に採掘された疑いが出ていたため、宝石は警察当局がそのまま保管することになった。

 米国に輸出する際に「石はアスファルトだ」と虚偽の申告をしていた疑いも浮上。ブラジル政府は刑事共助条約に基づき、事件の証拠品としてエメラルドの返還を求めた。米政府の訴えを受けて、連邦地裁はブラジルへの返還を命じた。

 報道によると、宝石商は「ブラジルの国宝だというなら、現実を見ないといけない」と訴訟継続の断念を示唆した。しかし、共に所有権を主張する業者は「これまでかけてきた時間を無駄にしたくない」と訴訟継続を訴えているという。【ワシントン秋山信一】

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