これまで実際の戦争で使われたことがないというICBM=大陸間弾道ミサイルをロシア軍が発射したとウクライナ空軍が発表しました。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアがウクライナを実験場にしている」と強く非難しています。

これは先月、ロシア国防省が公開したICBM=大陸間弾道ミサイルの発射映像です。同じ種類かどうかはわかっていませんが、ウクライナ空軍は21日朝、ロシア軍がロシア南部のアストラハン州からウクライナ東部の都市・ドニプロにあるインフラ施設などに対して、ICBMを含むさまざまなミサイルを発射したと発表しました。

ウクライナ当局は、ドニプロにある障害者施設などが被害を受け、2人がけがをしたと明らかにしました。

「ICBM」とは何なのか、専門家は…

東京大学 先端科学技術研究センター 小泉悠 准教授
「目的は敵国の中枢部をたたく。基本的に弾頭は核。通常の爆薬が積まれることはまずない。“ICBMを発射する”とは本来、第三次世界大戦が始まって人類最後の日みたいな状況のはず。これまでにICBMが戦争で実際に使われたことはない。基本的には伝家の宝刀で、抜かないことに意味がある兵器」

しかし、今回のミサイルについては…

小泉悠 准教授
「純軍事的に言うと、あまり意味はない。大陸間弾道ミサイルにしろ、中距離弾道ミサイルにしろ、数千キロ先とか1万キロ先のものをたたくミサイル。ところが、アストラハンからウクライナ・ドニプロまで1000キロ。射程の短いミサイルで良いわけだから、軍事的に合理的な行動ではないとすると、政治的なメッセージだったんだろうと」

アメリカCNNテレビは21日、西側当局者が「弾道ミサイルではあるが、ICBMではない」と述べたと伝えています。

ゼレンスキー大統領はSNSでロシアを非難しました。

ウクライナ ゼレンスキー大統領
「速度や高度など、すべての特徴はICBMのもの。専門家が調査中だ。プーチン大統領がウクライナを実験場にしているのは明らかだ」

なぜ、こうした事態が起きたのか。ロシアとウクライナの間ではここ数日、緊迫した状況が続いていました。きっかけは17日、バイデン大統領がウクライナに対し、射程の長いミサイル「ATACMS」について、ロシア領内での使用を認めたという報道。

ロシア ペスコフ大統領報道官
「実際に決定されたのなら、ウクライナ紛争をめぐるアメリカの関与の度合いと緊張が新たな段階に入ったことを意味する」

ロシア側は反発していましたが、ロシア国防省は19日、ウクライナ軍が「ATACMS」でロシア西部を攻撃したと発表。さらに、20日には、ウクライナ軍が初めてイギリス製の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」をロシア領内に向けて発射したと報じられました。

こうしたなか、ロシア大統領府は19日、プーチン大統領が核兵器の使用について、基準を緩和する大統領令に署名したと発表。ロシア領内を狙った大量のミサイルなどの攻撃が確認されれば、核兵器を使用するための条件になりうるとし、欧米の動きを牽制するような内容でした。

小泉悠 准教授
「ヨーロッパの国々は核兵器もそんなに持っていないし、警戒システムも持っていないし、国も小さいし、“実際にロシアが核を使ったら一番困るのはあなた達では”とプーチン大統領は繰り返し言ってきた。わざわざ大陸間弾道ミサイルと中距離ミサイルの間くらいだと思うが、そういうものを撃ち込んでみせるのは、目の前で見ているヨーロッパの国々に対して、“自国を危険に晒してでもアメリカが守ってくれるかわかりませんよ”とも同時に言ってきている」

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