中国の習近平国家主席が21日、9日間の南米2カ国歴訪を終えた。米国のトランプ次期政権に世界が身構える中、グローバル化や自由貿易の重要性を主張する習氏。それは、最初にトランプ氏が大統領に就任した8年前のリプレーを見ているようでもあった。
習氏は13日からまずペルーを訪問してアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に参加し、その後にブラジルで主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に出席した。
一連の演説で「世界は激動の時代を迎え、一国主義や保護主義が台頭している」と指摘。「我々はグローバルサウスが頼れる長期協力のパートナーだ」とも述べ、新興・途上国に寄り添う姿勢をアピールした。
「対中関税60%」を公約とするトランプ次期政権の誕生は、中国にとっては逆風にほかならない。しかし、同時に、大国としての存在感を高めるチャンスとも捉えている模様だ。
「米国第一」を掲げるトランプ氏が独善的な経済・外交政策に陥れば、欧州などの同盟国・友好国との関係に溝が生じる可能性がある。多国間主義や気候変動対策を重視する新興・途上国の警戒心も大きい。
習氏は今回の歴訪中、欧州や中南米、東南アジアなど15カ国以上の首脳と精力的に会談した。そこには近年、対中関係に問題を抱えていた日本や英国、韓国、オーストラリアも含まれていた。
「世界の多極化が進めば、中国には有利だ」と清華大戦略・安全研究センター主任、達巍教授は指摘する。米国の求心力が低下するほど、中国が幅広い国々と連携する余地が大きくなるとの計算がうかがえる。国内経済が停滞する中、外交関係は安定させたいという思惑もあるとみられる。
一方で、中国にとって同じような「好機」は8年前にも存在した。
「保護主義は自ら暗い部屋に閉じこもるようなものだ」。2017年1月、習氏はスイスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)でそう主張し、会場から大きな拍手を受けた。トランプ氏が大統領就任式に臨む数日前に「責任ある大国」として振る舞い、国際社会の注目を集めた。
では、その後の現実はどうなったか。
習指導部は経済の自由化や対外開放よりも「国家の安全」を前面に打ち出して社会・経済の統制を徹底するようになった。新疆ウイグル自治区で少数民族への抑圧が強まり、香港では民主化運動が踏み潰された。
今世紀半ばまでに米国に追いつくという目標を打ち出し、両国の覇権争いが決定的になった。既存の国際秩序への不満を隠さず、価値観の異なる欧米諸国、領有権問題を抱える周辺国との摩擦が絶えなくなった。
結果として、米中はそろって内向きの大国となり、国際社会は両国の間で板挟みになる事態に懸念を募らせている。
そして今、再びトランプ氏が米国のリーダーに返り咲き、最大のライバルである中国の出方に注目が集まっている。
ある中国人識者は「今こそ対外開放や国際協調を重視すべきだという意見は政府内にも多い」と指摘しながら、次のように付け加えた。「ただ、『やるべきこと』と『実際の行動』が一致するとは限らない。相手が攻撃的であるほど理性的に対応するのは容易ではなくなり、国内の政治事情も気にしなければならないからだ」【北京・河津啓介】
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