10月14日、台湾の朝は中国軍が発表した演習開始の一報で始まった。1日として過去最大の延べ125機の軍用機を動員した大規模なもので、中国軍は「『(台湾)独立勢力』を震え上がらせる」と息巻いた。だが台湾の市井の人々はさほど興味を示さないようで、どこか人ごとのように映ったほどだ。
「演習? 仕事でそれどころじゃなかったよ」
14日の正午過ぎ、台北市中心部の迪化街。記者の問いに、特産のからすみを商う男性は早口でこう言い返した。日本人観光客らでごった返す台北最大の問屋街には「中国軍」の文字はないかのようだった。SNSの注目度ランキングをみても、著名政治家による汚職事件関連の情報が上位を占めた。
台湾内外の政治や報道で大きな話題となる軍事演習が、市民の中ではあまり不安視されない、こうしたギャップは今に始まったことではない。2022年8月、ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発して行われた演習でもそうだった。日本の排他的経済水域(EEZ)にもミサイルが撃ち込まれるなど大規模演習だったが、民間団体「民意基金会」の世論調査に台湾人の78%が「怖くなかった」と答えた。
初めて総統を直接選挙で選ぼうとした台湾に、中国がミサイル演習を見せつけた1996年の第3次台湾海峡危機から約30年。経済など非軍事面にも及ぶ圧力は大なり小なり続いてきた。台湾でよく耳にする「もう慣れた」との声は偽らざる感情だろう。ただ「見かけの規模だけでなく、中国の国内情勢や米国の出方も踏まえて、威嚇か本気かを探る思考様式を身に付けた人が増えた」(台湾シンクタンク研究者)という分析も実態にかなり近いと感じる。脅しに対して高い耐性を持つことは、中国による台湾世論の分断工作を難しくさせることにもつながる。
一方、中国が台湾封鎖に関する作戦能力を重視した演習を積み重ねている点については、警戒を呼びかける識者が多い。台湾を取り囲むように海空域で行われた演習は、ペロシ訪台後では今回で3度目。台湾政府は、液化天然ガス(LNG)の備蓄は7日分しかなく封鎖を受けた際の弱点だと認めている。
圧力が日常の一部のように続く中、冷静にかつ危機感をまひさせることなく生活する。台湾の人々が歩こうとしている道は想像以上に難しい。
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