戦死した衛生兵の死を悼む同僚ら。東部の前線で負傷した兵士を脱出させる際に亡くなったという=ウクライナの首都キーウで2024年4月24日、AP

 日本の政府開発援助(ODA)を実施する国際協力機構(JICA)が今年1月、ロシアの侵攻が続くウクライナの首都キーウの拠点を3段階で最も大規模な「事務所」に格上げした。初代事務所長を務める松永秀樹さんに現状と今後の展望を聞いた。インタビュー前編ではカンボジアも実は支援の現場だと明かした。【聞き手・ワシントン秋山信一】

 ――現地での活動で何を感じますか。

 ◆2022年12月から定期的にキーウに入り、今年1月に事務所長として赴任しました。ウクライナに行き始めた当初は全体的に不安や暗い感じが漂っていましたが、23年になると反転攻勢への期待が高まりました。ところが、それがうまくいかず落胆が広がっています。ただ、前線は別として、キーウでは国民が普段通りに生活し、レストランやショッピングセンターも開いています。ウクライナ人の底力を感じます。

インタビューに応じる国際協力機構(JICA)ウクライナ事務所長の松永秀樹さん=米首都ワシントンで2024年4月16日、秋山信一撮影

 ――拠点を格上げしたのはなぜですか。

 ◆17年から(最も小規模な)フィールドオフィスとして活動していましたが、ロシアが全面侵攻する前に隣国モルドバに退避しました。23年11月に拠点を再開したのですが、大規模な支援を実施するために事務所に格上げしました。厳しい時も良い時も、現地の人と一緒に過ごしながら支援のニーズを肌感覚で探す必要があると判断しました。今は日本人は私を含めて2人ですが、これから増やしていきたいと思っています。

 ――具体的にどのような支援の要望があるのでしょう。

 ◆最近、注目されているのはインフラです。特にロシアの攻撃で電力関係の設備はひどく破壊されています。これまでに発電機を約500台供与しました。大規模な施設だと再びロシアの標的になる恐れがあり、1台で学校や数軒の住宅に電力を供給できるものを供与しています。他にも金属線で編んだ大きなかごに砕石を詰めた「ソイルアーマー」で、インフラ設備を囲って防護するという支援もしています。

 ――他にはどのような要望が。

 ◆地雷除去や不発弾処理、がれき除去、避難している子どもたちの遠隔教育のための機材といったニーズはずっとあります。

 地雷除去ではこれまでに地雷探知機54台を供与しました。6月末には遠隔操作ができる大規模な地雷除去装置の供与も計画しています。JICAは1990年代からカンボジアで地雷除去の支援をしてきました。今回はウクライナ人をカンボジアに派遣し、現地でカンボジア人からノウハウを伝えてもらっています。

教会内に並ぶ戦死した兵士の写真=ウクライナ西部リビウで2024年4月16日、AP

 ――パレスチナ自治区ガザ地区での人道危機が深刻ですが、一方でウクライナへの関心の低下を感じますか。

 ◆感じます。ウクライナで米欧メディアの報道を見ていても、取り扱われるニュースの量が圧倒的に減りました。人道支援を行うNGOへの寄付が減り、活動が縮小する悪循環を懸念しています。ただ、それでも日本の支援には持続力があります。注目度とは関係なく、ニーズがあるなら誰かがやり続けなければなりません。そうしないと混乱の種を植え付けることになってしまうからです。支援が足りず、住民の不満がたまって爆発することは他の地域で過去にもあったのです。(後編に続く)

松永秀樹

 1991年に旧海外経済協力基金に入り、国際協力銀行、国連開発計画(UNDP)などを経て、2008年にJICAに入った。エジプト事務所長や中東・欧州部長などを務めた後、24年1月からウクライナ事務所長。共に働いた経験のある緒方貞子元国連難民高等弁務官や岡本行夫元首相補佐官から「現場第一主義」を学んだ。56歳。

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