パレスチナ自治区ガザ地区での停戦と人質解放を巡る交渉を妨げる機密文書が海外メディアに流出し、波紋を呼んでいる。イスラエルのネタニヤフ首相周辺が意図的に情報を漏らした疑いがあり、首相報道官ら5人が逮捕された。ネタニヤフ氏の愛称「ビビ」にちなみ「ビビリークス」問題として、イスラエル政界を揺るがすスキャンダルとなっている。
問題となっているのは、イスラエル軍がガザ地区で押収したイスラム組織ハマスの関連文書。文書の一部は、戦闘継続を求めるネタニヤフ氏の意見に都合の良い形で改ざんされていた疑いがあり、英国とドイツの2紙に漏えいした。
流出したのは8月末にハマスに拘束されていた6人の人質が殺害されたことが明らかになり、人質解放を求めるデモが広がった直後のタイミングだった。
英紙「ジューイッシュ・クロニクル」は9月5日、ハマスがガザとエジプトの境界地帯を通じ、人質をイランやイエメンに移送させる計画があると報じた。しかし、同紙は文書が改ざんされた可能性があり、誤報だったとして記事を削除。記事を書いたフリー記者との契約を打ち切った。
独紙「ビルト」も翌日、別の機密文書に基づき、ハマスが停戦交渉に関心がないなどと報道。ビルト紙はイスラエル軍が文書を本物だと認めたとしているが、ネタニヤフ氏の主張を補強する内容だった。
ネタニヤフ政権は8月29日、ハマスによる武器の密輸を防ぐため、ガザとエジプトの境界地帯で軍の駐留を継続させると閣議決定した。これに対しハマスが反発し、交渉は停滞。その直後に人質6人が殺害され、イスラエル全土では「人質が見殺しにされた」などとして、大規模なデモが連日行われた。
文書流出を受けて、イスラエル軍は調査に着手。裁判所は11月1日、流出に関与した疑いで首相報道官らを逮捕したことを明らかにした。
ネタニヤフ氏は報道官について「安全保障の会議には参加していない」と主張。しかし、イスラエル紙ハーレツは、昨年10月のハマスとの戦闘開始以降、報道官が軍事基地などの訪問に同行し、機密情報に触れる会議にも参加していたと報じている。
首相の政敵で元国防相のガンツ氏は、機密文書が「(ネタニヤフ氏の)政治的な生き残り工作」のために利用されたなら、国家に対する犯罪だと指摘。最大野党党首のラピド前首相も、ネタニヤフ氏が漏えいを把握していたとすれば「最も深刻な安全保障を脅かす共犯者だ」と非難した。
ガザではいまだ100人以上の人質が拘束されている。イスラエル国内では人質解放の優先を求める声が強いが、ネタニヤフ氏はハマスの壊滅を優先し、戦闘を続けている。一方で、ネタニヤフ氏は汚職疑惑で起訴されており、裁判を遅らせるために、戦闘を長引かせているとの見方がある。【エルサレム松岡大地】
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