イーロン・マスク氏(左)と談笑するドナルド・トランプ前大統領。次期政権でもタッグを組む=米ペンシルベニア州で2024年10月5日、AP

 米大統領職と連邦議会上下院を全て共和党が制圧する「トリプルレッド」が固まったことで、トランプ次期大統領が掲げる大型減税などの経済政策が実現しやすい環境が整った。一方でトランプ政権が始動すれば米国で財政悪化が加速し、一度は落ち着いたインフレ(物価上昇)が再燃するリスクも高まる。外国為替市場で対ドルの円相場が下落するなど早くも影響が広がっている。

 14日の東京外国為替市場の対ドルの円相場は一時、1ドル=156円台をつけた。7月下旬以来、約4カ月ぶりの円安・ドル高水準だ。午後5時時点は前日比73銭円安・ドル高の1ドル=155円83~85銭。

 共和党が連邦議会選挙で、上院に続き下院での多数派を確実にしたと米メディアが報じたことをきっかけに米国の長期金利が上昇。これを受け為替市場で高金利のドルを買って、低金利国の日本の円を売る取引が膨らんだ。

 市場が意識するのはトランプ次期政権の経済政策だ。トランプ氏は大統領選で、自身が大統領時代に導入し2025年末で期限切れとなる所得税減税の恒久化を主張したほか、法人税の一段の引き下げなどにも踏み込んだ。

 トランプ氏の掲げる政策には、関税引き上げや不法移民の取り締まり強化などインフレ誘発につながるものも多い。物価高が再燃すれば米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げペースを遅らせざるを得ないとの思惑からトランプ氏勝利が決まって以降、外国為替市場で円安圧力が高まっている状況だ。

 関税引き上げや移民取り締まりの強化は大統領権限で実施できるものの、減税など税制改正を伴う政策を実行するには連邦議会で関連法案を通過させる必要がある。大統領選で圧勝し、上下院で多数派が異なる「ねじれ議会」も回避できたことで、議会対策の懸念は一掃された形だ。

 ただし、大型減税は景気押し上げが期待できる一方で、財政悪化に直結する「もろ刃の剣」でもある。超党派の「責任ある連邦予算委員会」によると、公約が実行された場合、35年度までの10年間で米国の財政赤字は7・75兆ドル(約1198兆円)増える見通しだ。

 米財務省によると24会計年度(23年10月~24年9月)の財政赤字は前年比8%増の1兆8300億ドル(約283兆円)。新型コロナウイルス禍への対応で財政出動を余儀なくされた20、21年度に次ぎ過去3番目の規模だった。そこへ「トランプ減税」による一段の財政悪化懸念が加わることになる。

 「小さな政府」を目指す共和党の伝統的スタイルに反し、トランプ氏はバイデン政権が拡充してきた社会保障の枠組みを維持する考えを示すなど財政拡張をいとわない。

 トランプ氏は12日、連邦政府の歳出削減や規制緩和を推進する政府外の助言機関「政府効率化省」を設立し、実業家のイーロン・マスク氏らをトップに起用すると発表した。同省の改革目標は26年7月と成果が出るのはかなり先になる見通しで、当面は歳出拡大が先行することが避けられない情勢だ。

 トリプルレッドの実現で、トランプ氏への信任が強まった面はあるものの、「財政赤字の拡大への歯止めがきかなくなる」(米エコノミスト)との懸念は強い。円安の加速を含め、日本もトランプ氏の政策に振り回される状況が続きそうだ。【ワシントン大久保渉】

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