なだらかな丘陵地にオリーブ畑が広がり、地元のパレスチナの人が飼育する鶏の声が鳴り響く。
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロン南郊の村、スシヤ。一見のどかな風景だが、村の出入り口の一部には無造作に大きな岩が置かれ、人々の移動は制限されていた。高台には、国際法違反とされるユダヤ人入植地が村を見下ろすような形で点在していた。
「岩は『安全対策』を名目に入植者が勝手に設置したものだ。我々はその先に行くことを許されない。入植者の暴力は過激になっている」。この村で約40年暮らしている男性、アッザム・ナワジャさん(62)が嘆いた。
ナワジャさんによると、2023年10月のイスラエルとガザ地区のイスラム組織ハマスの戦闘開始以降、過激なユダヤ人入植者が、毎日のように村を襲撃するようになった。24年7月には、ナイフを持った入植者の10代の男たちが「ここは我々の土地だ」と叫びながら、村に押し入った。イスラエル警察に相談したが、入植者は逮捕されなかった。8月下旬、同じ入植者たちが再び村を襲い、木の棒などで地元住民らを殴った。ナワジャさんも腕を負傷し、今も腕には痛々しい青黒いアザが残っていた。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、死傷者などを伴う入植者の暴力は23年9月が72件だったが、翌10月は233件に急増した。10月に始まった戦闘以降は1423件も報告されている。地元住民によると、入植者の暴力で、ヘブロン南郊では五つの村で約500人が家を追われた。
スシヤの治安権限はイスラエル側にある。「自治区」といっても名ばかりだ。警察は入植者の取り締まりに消極的な一方で、パレスチナ人が入植者に抵抗すると「ユダヤ人への暴力」として捜査をする。その状況を見透かし、入植者は暴力を続けている。ナワジャさんは「警察は頼りにならず、抵抗すれば『テロリスト』呼ばわりされる。どうすればいいのか、分からない」と途方に暮れた。
入植者の暴力に対して欧米の批判も強く、日本政府も7月、一部の入植者に対して資産凍結などの制裁を科した。しかし、国際社会からの批判をよそに、入植者による暴力は日々、続いている。
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