米共和党のトランプ前大統領(左)とポッドキャスト番組の人気司会者のジョー・ローガン氏=AP

 11月の米大統領選の選挙戦では、共和党のトランプ前大統領が積極的なメディア戦略を仕掛けている。普段は「フェイクニュース」とこき下ろす既存メディアともうまく付き合いながら、今回はポッドキャストの番組に多数出演。急きょ選挙運動に入った民主党のハリス副大統領よりもメディア露出では上回っている。

 「非常に申し訳ない。身動きが取れなかった」。トランプ氏は25日夜、中西部ミシガン州で開いた選挙集会の冒頭で、珍しく陳謝した。米メディアによると、気温が10度まで下がる中、聴衆は屋外で予定より約3時間待たされた。遅刻の原因はポッドキャスト番組の収録が長引いたことだった。

 番組の司会者はジョー・ローガン氏。コメディアンや総合格闘技のコメンテーターを経て、2009年に始めたポッドキャスト番組が全米屈指の人気となった。新型コロナウイルスのワクチン懐疑論で物議を醸したこともあったが、特定の政党を支持しない点が若者や無党派層から支持されている。

 トランプ氏は25日収録の番組に、異例の約3時間も出演。影響力のあるローガン氏に「カマラ(ハリス氏)に投票などできない。そういうタイプの人間じゃないだろう」と支持表明を求める場面もあった。

 2年前にトランプ氏について「民主主義に対する脅威だ」と批判していたローガン氏はかわしたが、収録は和やかに進み、ローガン氏のファンにアピールしたいトランプ氏の狙い通りとなった。ABCニュースによると、ポッドキャスト出演に関しては、大学生の三男バロンさん(18)が助言役を務めているという。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの10月16日時点の集計によると、トランプ氏は7月の共和党全国大会以降、メディア出演は59件に上る。既存のテレビ局28件、ラジオ10件、新聞・雑誌10件、ポッドキャスト7件、ライブストリーミング番組など4件とバランスよく多様なメディアに出ている。8月にはX(ツイッター)のライブ配信で、実業家のイーロン・マスク氏と対談した。

 一方、ハリス氏は8月の民主党全国大会以降、メディア出演は26件にとどまる。7月にバイデン大統領が選挙戦から撤退。準備期間が短く、当初はメディア出演を控えていた影響もあり、露出度は劣る。

 ただ、ハリス氏もポッドキャストやライブストリーミング番組に計5件出ており、メディアの多様化を意識していることがうかがえる。両候補は中南米系の人口増加を踏まえて、スペイン語専門のメディアにも出演している。

 AP通信は両候補のメディア戦略について、テレビ視聴者や新聞読者の減少が影響していると分析。ポッドキャストやライブストリーミング番組は視聴者の傾向がはっきりしており、選挙運動で性別や人種など有権者のターゲットを絞ってアピールしやすい特徴があると指摘している。【ワシントン秋山信一】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。