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私が引っ越してきたのは北欧スウェーデンの首都ストックホルム。スウェーデン語を話せるわけでもなく、この国について特段の知識があるわけでもないままの移住となった。持っているイメージといったら、SDGs達成度ランキングの上位常連国、福祉国家、移民が多い、英語を話せる人が多い、寒い、自然が多い、H&M、IKEAくらい。

この国がどのような国で、日本の生活とどのような違いや共通点があるのか、そんな好奇心と共に新生活が始まった。
(ジャーナリスト 諸岡遥)

■収集車不要のシステム

生活の中でまず見つけた、変わったシステムがごみの収集法だった。私が住む集合住宅の傍には6個のポストのような見た目のダストシュートが並んでいる。ダストシュートは地下パイプに繋がっていて、空気圧で集積所まで運ばれる。つまり、収集車不要の自動ごみ収集システムだ。

6つのダストシュートは、手前3つが可燃性廃棄物用、真ん中2つがプラスチックごみ、一番奥が食品廃棄物用と分かれている(ストックホルムでは昨年から食料廃棄物の分別回収が義務化)。なお、瓶や紙容器などは、建物内にごみ置き場が設けられていて、収集車で回収し、各処理施設まで運ばれている。

ダストシュート この記事の写真は9枚 地下にある輸送管(「Envac」提供)

ダストシュートは建物の居住者専用で、24時間いつでも利用できる。建物に入る際に使う鍵を端末にかざすと全ての扉が開き、ごみを投入すると数秒後にロックされる。投入口は狭く、中も真っ暗なので覗いても何も見えない。吸い込まれる音がするわけでもなく、地上からは中で何が起きているか全く分からない。

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■パイプ内を時速70kmで移動

■パイプ内を時速70kmで移動

ダストシュートの中では何が起きているのか。この地区のごみ自動収集システムを管理するスウェーデンのENVAC社によると、ごみは下部にあるバルブで一時的に留め置かれ、定時または、満タンになった際に集積所にシグナルを発し、空気圧による収集が始まる。パイプの中をごみが移動する速さは時速70kmにもなるという。

パイプが行き着く先の集積所は住宅地から離れた、幹線道路沿いに設置されていて、そこから焼却場、バイオガス生産工場やリサイクル施設にそれぞれトラックで運搬される。

システムのイメージ(「Envac」提供)

私が住む地区では、2300〜2500世帯が同一の収集システムに繋がっている。この地区は全て集合住宅のため、1棟仮に50世帯とすると、約50棟の建物で、週に複数回のごみ収集が不要になるということだ。これにより、住宅地での交通量が減り、ごみ収集にかかる二酸化炭素排出量が減る。収集車は死角が多いことから、事故も起こりやすいため、このリスクも減らせる。住民としても、敷地内に臭いの気になるごみ出し場があるよりも、この少しポップな見た目のごみ箱がある方が住み心地がいい。大雨や大雪などの悪天候であっても、ごみ収集が滞りなく行われることも公衆衛生上の大きなメリットだ。

移動式収集車(「Envac」提供)

地下に長いパイプを埋めるという、大規模な工事を必要とすることから多くは新しく開発する住宅地に建設される。一方で、既存の住宅地に比較的多く設置される、移動式のごみ収集システムもある。同様のダストシュートの下に大きな密閉タンクが地下に埋められていて、そこにごみが一時的に貯め置かれる。タンクに繋がったパイプの先は地上にあり、そこから専用車両が定期的にごみを吸引するという仕組みだ。

■日本で導入も廃止相次ぐ

このごみの自動収集システムは、ENVAC社の前身が世界で初めて開発したとされる。1961年にスウェーデン中部ヴェステルノールランド県の病院に導入し、1967年にはストックホルムの住宅地 稼働した。両システムは、現役で、導入当初のパーツも残っているという。

日本でも70年代から90年代にかけて、全国のニュータウンを中心に導入が進んだが、千葉県の幕張ベイタウンなど数箇所を除き、軒並み廃止されている。

一番の問題はコストだ。千葉ニュータウンは設備の点検費用を挙げ、横浜のみなとみらい地区は集じん設備の更新費用を、多摩ニュータウンはパイプの老朽化により補修費がかさんだことなどを廃止の理由に挙げた。また、導入当時はごみの分別が浸透する前だったため、ダストシュートの種類は一つのみで、収集量も多かった。ただ分別が始まって以降は、種類別の輸送ができないシステムであったため、収集量が減少し、採算が取れなくなったことも指摘された。

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■ストックホルムでは件数増加 その理由は?

■ストックホルムでは件数増加 その理由は?

ストックホルム市の上下水道と廃棄物収集を管理する、Stockholm Vatten och Avfall(SVOA)社によると、同市では51万世帯のうち、約10万世帯が自動収集システムにつながっており、さらに導入件数は増えている。

日本との比較は様々な条件が異なるため難しいが、コスト面がネックと見られる同システムが、なぜ広まり、拡大の方向にあるのか。同社の広報担当アレクサンドラ・ フリートウッド氏に尋ねた。

フリートウッド氏は大きな理由を2つ挙げた。まず一つ目は、従来の手動による廃棄物収集が作業員に非常に負担のかかる作業であることから、ストックホルム市は収集の機械化を促進していると説明した。
廃棄物管理の業界は労働環境の観点から長年問題視されており、特に収集作業では、天候に関わらず行わなければならず、重い物を持ち上げる体への負担、危険物との接触などリスクを伴っている。そのため、同市は、工事や運用が可能かつコスト面で合理的な限り、機械化された収集法に全面的に移行しようとしている。その機械化の方法の一つが、自動収集システムというわけだ。

次に挙げた理由は、空間の有効活用が可能になるという点だ。ストックホルム都市圏では人口の増加が続く中、それを支えるための住居やインフラ、オフィス、教育施設の建設が喫緊の課題となっている。
住居だけでも2010年から35年までに14万戸を建設する目標を掲げており、この間に大規模な住宅地が開発されている。市面積の約4割が公園を含む緑地、17%が水面という豊かな自然環境を残した上で、快適な生活環境が整った住宅を増やすには、空間の有効活用が求められる。そのため、少ないスペースで、多くの世帯のごみを効率的に収集できる自動収集システムのメリットが大きい。
こうした理由から、2018年に策定された都市開発計画では、大規模な宅地開発においては自動収集システムの導入検討が前提と示されている。

ストックホルム市内

ただし、導入決定にはコスト面が重要な要素であり、1000世帯以上が接続できることが条件だとフリートウッド氏は説明した。財政的な負担を軽減するため、システムは長期間使用できるよう設計されており、地下配管は80年間使用可能な耐久性を持つ設計になっているという。

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■世界の都市で増える人口 その分ごみも増えていく・・

■世界の都市で増える人口 その分ごみも増えていく・・

ENVAC社は各国で自動収集システムの導入件数を伸ばしており、現在22ヵ国で事業を展開している。特にヨーロッパとアジアで多く、隣国韓国では世宗特別自治市内を始め、建設中のものを含め50件のプロジェクトを持っている。

同社国際ビジネス部門のシニアマ ネージャー・朴秀濠氏は、同国の人口密度の高さがシステムのメリットが特に活きる理由だと話す。また、コスト効率については、長期間使用できる適切なシステム設計と設備の選定、何より徹底した自動化により向上すると説明した。

都市によって、予算も人口密度も地盤も住民のニーズも異なる中で、この自動収集システムが全ての都市で最適なごみの収集法ということはないだろう。ただ、人々の健康や幸せ、環境への影響などの観点で、生活のあらゆる側面が見直される今、ごみの収集方法にも改善の余地があるかもしれない。

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