「中国が影響力を拡大する南太平洋の島しょ国で……」という一文を含む原稿をこの数年で何回書いただろうか。それほどにこの地域での中国の存在感は増している。毎朝確認する島しょ国のメディアで、経済支援や文化交流イベントなどで中国が関連したニュースを見ない日はほとんどない。
中国がこの地域への関与を強め始めたのは2000年ごろだ。06年からは、日本とこの地域の首脳会議を模した中国版「太平洋・島サミット」を開き、大型インフラ投資や経済援助でその距離を縮めてきた。19年以降は、台湾と断交したソロモン諸島やキリバス、ナウルと相次いで国交を樹立している。
こうした流れについて先日、キリバスのアノテ・トン前大統領(72)と電話で話をする機会を得た。03~16年に大統領を務めたトン氏は「中国はこの地域の地政学的重要性に着目している。過度な(中国への)接近はリスクでしかない」と懸念を示した。
◇分かりやすい支援になびきがち
キリバスの首都があるタラワ島にはかつて、中国の衛星追跡施設が設けられていた。キリバスは、米軍が拠点を置くハワイに近い上、隣国マーシャル諸島には米国のミサイル実験場がある。トン氏は、大国間の争いに巻き込まれる事態を案じ、施設の撤去を公約に掲げて大統領選に出馬。当選後は中国と断交し、台湾と外交関係を結んだ。
しかしトン氏の引退後、キリバスは中国との外交関係を復活させた。その背景についてトン氏は「島しょ国は、インフラ投資などわかりやすい結果だけで中国を評価する」と解説する。一方、米国の同盟国であるオーストラリアの姿勢も、中国が影響力を強める余地を生んできた。前政権がこの地域で最大の関心事である気候変動対策に消極的だったり、今も世界3位の化石燃料輸出国であったりするためだ。トン氏は「真のパートナーを見極めた上で支援を求め、連携をはかる必要がある」と強調した。
トン氏は今、島しょ国の元首脳らで作る「パシフィック・エルダーズ・ボイス」という団体の会長として、気候変動や中国との関係など、地域の問題で政策を提言している。トン氏はこの団体が「島しょ国の平均寿命より長く生きた者たちによる知恵袋だ」とし、こう続けた。「知恵を基に言うべきことを言い、若者に明るい未来を残したい」
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