11月の米大統領選を巡って、民主党のハリス副大統領の陣営が黒人男性にターゲットを絞った運動を強化している。黒人の支持率は共和党のトランプ前大統領を大きく上回っているが、過去の民主党候補に比べると伸び悩んでいるためだ。しかし、黒人男性を優遇する姿勢を打ち出すことは、有権者の反感を買うリスクもはらんでいる。
「ブラザー(黒人男性)に熱気がないようだ。女性を大統領にしたくないのではないかと勘ぐってしまう」。民主党のオバマ元大統領は今月10日、激戦州の東部ペンシルベニア州ピッツバーグでハリス陣営の事務所に立ち寄った際、黒人男性の支持伸び悩みに懸念を示した。
オバマ氏の懸念は、世論調査からも浮かび上がっている。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)の9月下旬~10月上旬の調査では、投票する予定の黒人有権者のうち78%がハリス氏、15%がトランプ氏を支持した。圧倒的にハリス氏が優位だが、2016年や20年の大統領選の出口調査で民主党候補の支持率が9割台だったのに比べると、優位性はやや低下している。
NYTの調査では、黒人男性に限ると、70%がハリス氏、20%がトランプ氏を支持していた。18~29歳の黒人の21%がトランプ氏に傾いていた。民主党のバイデン政権で物価高(インフレ)が進み、元々白人とは所得格差がある黒人の生活はさらに厳しくなった。トランプ氏はそうした不満をたきつけ、黒人の有権者を取り込もうとしている。激戦7州のうち黒人住民が多い南部ジョージア、ノースカロライナ両州などで、ハリス陣営が不利になる可能性もある。
危機感を抱くハリス陣営は14日、起業や教員資格取得を支援する際、黒人を優遇する方針を公表。嗜好(しこう)用大麻(マリフアナ)の規制緩和、仮想通貨(暗号資産)の保護策など、黒人男性の歓心を買うための政策も発表した。
ただ、特定の人種や性別を優遇する政策は、保守派からは「アイデンティティー・ポリティクス」として批判されており、黒人以外から反感を買うリスクがある。また、民主党を支持する黒人俳優のウェンデル・ピアースさんは黒人男性が批判されていることについて「白人女性からの支持が不足していることのスケープゴートとして、我々を使わないでほしい」と不快感を示した。【ワシントン秋山信一】
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