2024年のノーベル経済学賞受賞が決まった米マサチューセッツ工科大(MIT)のダロン・アセモグル教授が14日、オンライン記者会見を開いた。先進国で民主主義への支持率が低下していることに警鐘を鳴らし、労働者階級の信頼を取り戻すべきだと主張。社会の分断をあおる悪質なネット交流サービス(SNS)から脱却し、健全なコミュニケーションを取り戻すことが重要だと訴えた。
アセモグル氏は「先進国で民主主義への支持は過去最低になっている。多くの人が、独裁政権の支配を容認したり支持するようになったりしている」と危機感を表明。背景には「全ての人々の声を守り繁栄させる」との約束を、民主主義が果たしていないことへの不満があると指摘した。
実際、経済のグローバル化などに伴って米国や欧州、日本では製造業などがかつての存在感を失い、賃金の伸び悩みで中間層の生活が厳しくなっている。
だが、アセモグル氏は「それでも民主主義国家の方が独裁政権より良い結果を出している」と主張。「汚職を排したクリーンな統治」や「より良い公共サービスの提供」などを通じて、民主主義が有権者の信頼を回復する必要があると訴えた。
アセモグル氏は「民主主義が国民と社会契約を結び直すことが重要だ」とも語り、「『国民』とは一部の選ばれたグループではない。幅広い有権者、とりわけ労働者階級のことだ」とクギを刺した。
こうした取り組みを前進させるうえで障害になるのが、社会の二極対立をあおるSNSだという。
アセモグル氏は、分断をあおったり特定の人物を悪者扱いしたりする態度や、SNSの貧困化したコミュニケーション空間を「現代の最悪の罪」と批判した。そのうえで、人々がそれらから自らを解放することにより民主主義が回復力を発揮するとの見方を示した。
アセモグル氏は「民主主義に必要なのは、より良いコミュニケーションのため相手を理解すること。相手を悪者扱いすることではない」と強調。価値観の似た者同士が交流することで特定の意見や思想が増幅する「エコーチェンバー」現象などSNSの問題点を指摘し、「悪質なSNSから撤退することによってのみ、私たちは(社会の)システムを修復できる」と述べた。
会見はMITがオンラインで開き、共同受賞者でMIT教授のサイモン・ジョンソン氏も参加した。
ジョンソン氏も民主主義が危機にさらされているとの認識を示しつつ、「世界で最も強い社会は一から築き上げられた社会だ」と述べた。意見の異なる多くの有権者が参画し、時間をかけてより良い民主主義を築くべきだと強調した。
ノーベル経済学賞の授与が決まったのは、アセモグル氏ら2人と米シカゴ大のジェームズ・ロビンソン教授。社会制度の違いが国家の繁栄に影響を与えることを解明した研究成果が評価された。【ワシントン大久保渉】
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