欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は9日の欧州議会で、ウクライナへの支援に消極的でロシア、中国寄りの姿勢を取るハンガリーが「欧州に安全保障上のリスクをもたらしている」と非難した。ハンガリーのオルバン首相は8日、「ウクライナはロシアとの戦争に勝てない。EUのウクライナ支援は愚かだ」と発言しており、EUとハンガリーの対立が一段と深刻化している。
フォンデアライエン氏は9日の欧州議会で、「ロシアの戦争での残虐行為を世界が目撃している。それでもなお、侵略者よりも侵略された側に責任があると主張する人たちがいる」とハンガリーを念頭に発言。「ならば1956年のソ連による(ハンガリーへの)軍事介入で、彼らはハンガリー人に責任があると言うのだろうか」と皮肉った。
EU各国はロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、資金や武器、弾薬を供給するなどし、戦闘継続を支えている。
だが7月1日にEU加盟国で構成する欧州理事会の議長国に就任したオルバン氏は同月、他の加盟国と調整しないままウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談。その後、モスクワでロシアのプーチン大統領、北京で中国の習近平国家主席と相次いで会談するなど、独自の「仲介外交」でウクライナ、ロシア間の和平交渉を促そうとしている。
また、欧州市場でシェアを拡大する電気自動車(EV)など、政府の補助金を受けた安価な中国製品に対しEUが警戒を強める中、ハンガリーは中国との経済連携を強化している。さらにオルバン政権は今年2月、ハンガリー国内に中国の警察官を受け入れ、巡回などを認めると発表した。
フォンデアライエン氏は9日の欧州議会で「なぜ中国の警察官を受け入れるのか。これは欧州の主権の防衛ではなく、欧州への外交介入につながる」と批判。また、EUがビザの発給を厳格化しているロシア国民に対してハンガリーが就労許可手続きを簡略化する措置を講じていることについても、「ハンガリーだけでなくEUの全加盟国にとって安全保障上のリスクとなる」と述べた。
オルバン氏は7月、ウクライナ支援に消極的なトランプ前米大統領とも米フロリダ州で会談している。オルバン氏は今月8日、11月の米大統領選に言及し、「トランプ氏が当選したら、就任を待たずに(ウクライナとロシアの)和平に向け動くだろう。欧州の首脳もこれに応じなければならない」と強調。「トランプ氏が大統領に返り咲いたらシャンパン数本で祝おう」と述べた。
オルバン氏と蜜月関係にあるトランプ氏が大統領選で当選すると、ウクライナ支援を巡る欧州の結束が乱れ、米欧の外交関係が混乱する懸念がある。【ブリュッセル宮川裕章】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。