SDGs企画をお伝えするテレビ朝日『未来をここからプロジェクト』。

海面上昇にハリケーンなど、気候変動は、アメリカの人々の暮らしにも大きな影響を与えています。いま進められている巨大プロジェクトを取材しました。

ジャズが生まれた街・ニューオーリンズ。
街の半分が、海抜ゼロメートルを下回り、“スープの皿”の異名を持つこの地を、毎年、ハリケーンが襲います。20年で、人口の3分の1が流出しました。

国連は、2050年までに、さらに海面が41センチ上昇すると予測しています。

豊かな生態系を育み、生活の場でもあった湿地帯が、加速度的に沈んでいます。

アメリカの選択。人工的に湿地帯を復元する、50年、500億ドルの巨大プロジェクトです。

ニューオーリンズから東に約30キロ、ボーン湖。50年前は“陸”でした。

ここで行われているのは、水深1.5メートルほどにある泥を使って、湿地帯を再生する工事です。

天然の泥は、養分を含みます。集めて陸を造り、しばらくすると、草が生え、早ければ半年で湿地帯になっていくといいます。

復元プロジェクト現場責任者 バリー・リチャード氏
「(Q.どのくらいの土地を造る計画ですか)3200エーカーです。(東京・千代田区ほど)。来年にはすべて完成し、10年、この状態が保たれます。このような対策を何もしなければ、沿岸コミュニティーの多くは、違いなく消滅の危機に瀕します」

ミシシッピ川の周辺で進行する107のプロジェクト。州の担当者は「災害防御の切り札になる」と語ります。

ルイジアナ州沿岸保護修復局 グレン・レデットJr.氏
「このプロジェクトは生態系に重要な湿地帯を復元するだけでなく、ニューオーリンズ中心部と周辺の災害防御を高めます。ハリケーンや高潮による被害を湿地帯が吸収してくれるのです」

かつての水害対策を180度転換するプロジェクトがあります。『ミッドバラタリア計画』です。

アメリカ史上、最も壊滅的な災害といわれる1927年、ミシシッピ大洪水ののち、沿岸ほぼ全域に堤防が整備されました。おかげで、洪水は少なくなりましたが、堤防は、川から海へ流れ出て湿地帯になる泥もせき止めています。海と陸の緩衝帯が消えていき、かえって都市部が危険にさらされてしまったのです。

プロジェクトを支援する環境団体 ジェームス・カースト氏
「短期的には良い解決だったが、長期的にはマイナスだった。湿地帯に悪影響を及ぼした」

ここでは堤防に穴を開けて、水路を通し、ミシシッピ川の流れを取り戻すことで、再生を目指します。

巨大プロジェクトに協力しているカーストさんが、特別な場所に案内してくれました。

5年前の嵐で、偶然、堤防に穴が空き、自然によみがえった場所です。

プロジェクトを支援する環境団体 ジェームス・カースト氏
「これは自然にできた。堤防で100年間切られていた、このスイッチをもう一度入れるべきだ。そうしたら魔法が起こる」

沈みゆくジャン・チャールズ島。先日もハリケーンが襲いました。

2年前、住み慣れた家を離れたクリス・ブルネイさん(59)。
生まれた時から、これまでに島の98%が海に沈み、残る2%も消えつつあります。

“沈みゆく島”の元住民 クリス・ブルネイさん
「以前はちょっとした森があって、そこに行って一日中、過ごした。そんなふうにして子は育つ。風が気持ち良く、座っているだけで幸せだった。父は漁師で、ボートで海に漁に出るのについて行っていた」

先住民や移民が暮らしてきた歴史ある島です。結婚式では、街の人々が集まって祝福。コミュニティーが受け継がれてきました。

先祖の墓地は、沼にのまれ、移すこともできません。

湿地帯を保全する巨大プロジェクトの主な目的は、都市部の水害の軽減です。島にも州の担当者が視察に来ましたが、費用をかける価値が低いと判断され、保全の対象になりませんでした。沈みゆく運命にあります。

“沈みゆく島”の元住民 クリス・ブルネイさん
「島を出るなんて、考えたこともなかった。私のアイデンティティは故郷にあります。個人としてでなく、歴史あるコミュニティーの一員である気持ちが強い。気候変動は、影響を受けた人にしか本当の意味はわからない。私たちは、移住するはめになった。それは“答え”ではなく、“応急処置”でしかありません。気候変動は続いていくのです」

▶「報道ステーション」公式ホームページ

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。