イスラエル軍はなぜ、隣国・レバノンへの攻撃を強めているのでしょうか。
■様々な宗派の人々が混在するレバノン パレスチナ難民と子孫は推計約25万人
古くから海洋貿易の拠点として栄えたレバノン。第1次世界大戦後、フランスの事実上の植民地になると、首都ベイルートは『中東のパリ』と呼ばれる街並みを誇り、中東でのビジネスの中心地としても繁栄しました。
このレバノンという国名は古い言葉で『白』を意味し、雪化粧のレバノン山脈に由来します。岐阜県ほどの国土に約530万人が暮らしますが、キリスト教やイスラム教の様々な宗派の人々が混在し、『モザイク国家』とも呼ばれてきました。
ちなみに、フランス国籍も持つレバノン人で、元日産会長カルロス・ゴーン氏が逃亡した先は、このベイルートでした。
イスラエルとは国境を接しています。そのため、1948年にイスラエルが建国されて以降、元々その地に住んでいたパレスチナ人が故郷を追われてレバノンに逃れ、そのパレスチナ難民と子孫が約25万人も住んでいると推計されています。
こうした中で、イスラエルのパレスチナ占領に抵抗する組織がいくつもレバノンを拠点に活動してきた経緯があり、現在もベイルートにはハマスの支部があります。
■イスラエルが戦線拡大 「レバノンを第2のガザにしてはならない」
その中で、1980年代に結成されたのが、イスラム教シーア派の組織・ヒズボラ。
イランの支援を受け、戦闘員は4万人から5万人ほど、ミサイルやロケット砲などは15万発を保有しているとされています。
今回イスラエル軍に殺害された、ヒズボラの指導者・ナスララ氏は、アラブ・イスラム世界ではカリスマ的な存在で、中東地域で最も影響力のある指導者の1人とされています。
ヒズボラは政党としても活動していて、国会に議席を持ち、暫定政権の一角として閣僚も輩出しています。
今回、緊張が高まったのは9月中旬、レバノン各地でポケベルやトランシーバーなどの通信機器が一斉に爆発、37人が死亡してからです。
ヒズボラのメンバーを狙って、イスラエルが遠隔で仕掛けた攻撃とみられ、レバノン各地へのイスラエル軍の大規模な空爆は、この直後から始まりました。
イスラエル軍はさらに地上侵攻の構えを見せています。ガザ侵攻を続ける中で、なぜ今、レバノンにまで攻勢を強めているのでしょうか。
取り沙汰されているのは、イスラエル・ネタニヤフ首相の政治的な事情です。
実は、背任や詐欺など三つの罪で起訴されて、裁判が進行中です。イスラエルの有力紙も、『自身の証人尋問を延期させるために、戦線を拡大している』と指摘しています。
さらにガザ攻撃における、人質の解放が行き詰まっていることへの国内の批判を逸らすために、戦果をアピールし、支持率の上昇を狙っているという分析もあります。
24日の国連総会で、グテーレス事務総長は、『レバノンを第2のガザにしてはならない』と訴えました。国際社会は、紛争の拡大を止めることはできるのでしょうか。
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