3日連続となったイスラエル軍によるレバノンへの大規模空爆。攻撃対象は南部が中心ですが、首都・ベイルートを含む、レバノン全土に拡大しています。わかっているだけで、23日以降の死者数は581人。負傷者は、2000人に迫っています。

イスラエルは“狙っているのはヒズボラの司令官や軍事拠点“としていますが、民間人が巻き込まれているのも事実です。

けがをした人
「イスラエルは、真っ先に市民を狙う。友人と歩いているだけで狙われた。これは戦争ではない。わざと市民を狙っている」

けがをした人
「2006年の戦争よりも激しい攻撃。イスラエルは、以前と同様に老若男女構わず攻撃してくる」

住民
「この地区は居住区で、武装勢力などはいない。ここには戦闘員はいない。薬局やスーパーがあるだけ」

北部に避難しようとする市民の動きは、日を追うごとに大きくなっています。それは、南部だけでなく、ベイルートでもみられます。18年前のあの記憶があるのかもしれません。

2006年、イスラエル軍によるレバノン地上侵攻。このときも、レバノン全土に空爆が行われてから、南部に地上部隊を送り込みました。

ベイルートも空爆の標的となり、首都は壊滅的状況に。1000人を超える犠牲者の多くが一般市民だったといわれています。

現在、レバノン国境地域に部隊を集めているイスラエル。

イスラエル軍・ハレビ参謀総長
「私たちは、ヒズボラが20年かけて建設したヒズボラの軍事インフラを奪取している。これは“ 次の段階”に向け、非常に重要なことだ」

“次の段階”が、地上侵攻を指すのかはわかりませんが、双方の応酬が激化すればするほど、その可能性は高まっていきます。

折しも国連総会が始まったタイミング。世界中から懸念の声があがっています。

国連・グテーレス事務総長
「レバノンは瀬戸際にあります。世界はレバノンを“第2のガザ”にしてはならない」

ヨルダン・アブドラ国王
「この数日、レバノンで危機的なのは、誰の目にも明らかです。これを止めねばなりません。イスラエル政府は、近年の、どの戦争よりも、子ども、記者、援助員、医療従事者を犠牲にしてきたのです」

アメリカのバイデン大統領も、イスラエルを名指しで批判はしなかったものの、こんな言葉で自制を求めました。

アメリカ・バイデン大統領
「国境沿いの多くの市民が住む場所を追われています。誰も全面戦争を望んでいません。状況が深刻化しても、外交による解決は可能です」

今後の中東情勢を占ううえで、忘れてはいけないのが、ヒズボラの後ろ盾であるイランの存在です。

CNNの単独インタビューに応じたペゼシュキアン大統領。

イラン・ペゼシュキアン大統領(23日)
「(Q.ヒズボラがイスラエルに大規模な報復攻撃を仕掛け、戦火がレバノンからさらに広がるとお考えですか)レバノンで起きているのは、人道的危機です。欧米からの支援国が人権法でも、国際法でも正当化できない罪を犯している。それを忘れてはいけません。ヒズボラに対する以前に、国連、または、人権を主張する国々が、強制的にイスラエルを止めるべきなのです。自由や民主主義を主張する国が“人殺しの国”を支援しています。子どもや老人が殺害されているのです。“第2のガザ”を生んではなりません」


◆レバノンが“第2のガザ”になるのか。イスラエルの地上侵攻は、今後、あるのでしょうか。
     
レバノンは、国家としては“異常な状態”が続いているということです。どういうことなのでしょうか。
中東情勢に詳しい立命館大学の末近浩太教授に聞きました。

末近教授は「レバノンは、キリスト教やイスラム教など18の公認宗派がある“モザイク国家”で、激しい政治対立が続いている。大統領を選出できず、内閣も発足できていない。そのレバノンで最も人口が多く、発言力が強いのがシーア派。ヒズボラは、そのシーア派の政党でもあり、力が非常に強い。本来、戦争が始まったら、政府が、停戦努力、外交努力をするが、軍事や外交をヒズボラが実質的に主導している」といいます。

2006年7月、イスラエルとヒズボラの間で、激しい戦闘が繰り広げられました。首都・ベイルートへの地上侵攻などで、レバノン側に1000人を超える死者を出す事態となりましたが、このときは、国連安保理で停戦決議が採択され、事態は沈静化しました。

その後、20年近く、両者の間に小競り合いはありましたが、大きな戦闘には発展しませんでした。
末近教授によりますと、「『民間人を狙わない』『“小競り合い”は国境付近で』という“暗黙のルール”があった」といいます。                                   
暗黙のルールを破ったのは、どちらなのでしょうか。

末近教授は「きっかけは“ポケベル攻撃”。イスラエルが暗黙のルールを完全に逸脱。ヒズボラの我慢の限界を超えた」と話します。

ヒズボラは、国境付近を超え、これまでになかったイスラエル第3の都市・北部のハイファや、ヨルダン川西岸地区のイスラエル入植地への攻撃も行っています。

なぜ、イスラエルは、これほどの行動に出たのでしょうか。

末近教授は主な理由として2つ挙げています。
一つ目が「ヒズボラの攻撃で北部に住む住民約6万人が避難している。北部の安全を保障するには空爆などでヒズボラの戦力を削る必要がある」といいます。そして、もう一つが「ハマス殲滅は未達成も、これ以上ガザ地区で挙げられる“成果”はない。強硬派が支持基盤のネタニヤフ首相は、国内での支持を保つため“新たな敵”が必要だったのでは」としています。                    

地上侵攻はあるのでしょうか。

末近教授は「まったく予想できない状況。イスラエルにとっては、レバノン南部を占領すれば、ミサイル攻撃が減るので地上侵攻の可能性はある。ただ、丘陵地帯なのでゲリラ戦も想定され、容易ではない」といいます。

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