中国広東省深圳市で日本人学校に通う男子児童が刺殺された事件から1週間。背景や対応について垂秀夫前中国大使に聞いた。【聞き手=米村耕一】
大使だった2023年春に深圳日本人学校を訪問した。それだけに今回の事件は胸が張り裂けそうな思いで、強い怒りを感じている。犠牲となったお子さんにも会っていたかもしれないと思うからなおさらだ。
わずか3カ月の間に2度も日本人学校に対する襲撃が起き、いずれも死者が出た。これは中国外務省が主張するような「どこの国でも起きうること」で済ませて良いものであろうか。
日本人学校というのは在中国の邦人社会で最も弱い「関節」だ。ここ数年、「スパイを養成している」などのデマをばらまき、この最も弱い所への攻撃を誘発するような動画が中国のSNS(ネット交流サービス)上に出回っている。
これまで模倣犯を警戒し、あまり公にしてこなかったが、日本人学校への投石や落書き、物を投げ入れるといった嫌がらせ行為など小さな事件は相次いでいた。SNSへの対応などを中国当局に求めてはいたが、今思えば今回の事件の兆候は少しずつ出ていたと言える。
6月の蘇州での母子襲撃事件の後、いくつかの中国のSNS運営企業がデマ投稿を削除したと発表した。ところが今回の事件の前には、すでに以前と同様のデマ投稿が拡散していた。今回も一部企業が投稿を削除したようだが、別のSNSでは大量のデマ投稿が残っている。結局は本質的な改善にはつながっていない。日本メディアも発表を見て即断せず、中国のSNS環境を自らがよくチェックしていく必要がある。
中国政府は「偶発的な事案により両国関係に影響を与えるべきではない」と言い続けるだろうが、これを容認したり、同意したりすることがあってはならない。SNSへの対応も含め、常に「あれはどうなったのか」「このままでは日本企業が家族帯同で社員を赴任させられない」と問い続けるべきだ。
中国内に事件に心を痛め、献花をする人たちがおり、そもそも蘇州では中国人が体を張って日本人を助けてくれたのも事実だ。しかし、だからといって中国当局に対して「大人の対応」をすべきではない。もう二度と同じような悲劇を犯さないためにも。
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