来年1月に退任するバイデン米大統領は24日、ニューヨークで開かれた国連総会で最後の一般討論演説に臨んだ。国際社会が直面する課題を列挙しながら、対処に必要な「決断と行動」を例示。また、やり残した「宿題」への取り組みを各国首脳らに呼びかけた。
「東西冷戦で世界は分断され、中東は戦争に向かい、米国はベトナム戦争のさなかで分断や怒りが国内にあった」。バイデン氏が演説の冒頭で触れたのは、連邦上院議員に初当選した1972年の国内外の情勢だった。
半世紀以上たった今と共通点が多い難局を「米国と世界は切り抜けてきた」と強調。各国首脳に対して「今また、我々は歴史の転換点にいる。今日の選択が、今後数十年の未来を決定づける」と訴えた。
バイデン氏が「宿題」の最初に挙げたのは、ウクライナ情勢だった。ロシアによる国連憲章違反の侵略に対して「傍観し、抗議だけすることもできた。しかし、ハリス副大統領と私は、これが国連が象徴するものに対する攻撃だと理解していた」と強調。自身が後継に推薦し、11月の大統領選に臨むハリス氏の名前も挙げて「ウクライナが正当で持続的な平和を勝ち取るまで、我々は支援を止めない」と強調した。
外交の最重要課題としてきた「中国との戦略的競争」でも、「原則を守る必要がある」と訴えた。合成麻薬への対策などで米中が連携していることを評価する一方で、南シナ海での威圧的行動への対応、台湾海峡の安定の維持、不公平な経済慣行の是正、先端技術の保護では「物おじしない」と断言した。
混乱が続く中東情勢では、2023年10月に起きたパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの越境攻撃を最初に非難した。「どの国も、二度とあのような攻撃が起きないようにする権利と責任がある」としてイスラエルのガザ地区侵攻を擁護した。
その上で、難航する停戦交渉に関して「すべての当事者が(停戦合意の)文言に決着をつけ、この戦争を終わらせる時だ」とイスラエル、ハマスの双方に譲歩を要求。ヨルダン川西岸での「(イスラエル側による)罪のないパレスチナ人への暴力にも対処しなければならない」と苦言を呈する場面もあった。イスラエルに対しては、パレスチナ国家の樹立を前提とした「2国家解決」を改めて呼びかけた。
一方、国際社会の共通課題として最も強調したのは、人工知能(AI)を巡るルール作りだった。「AIは生活や労働、戦争の方法を変えていく。どう進化し、どう使われるのか。誰も答えを持っていないが、技術競争と同じくらい安全や信頼性の確保に取り組む必要がある」と指摘した。
また、常任理事国として拒否権を持つ米英仏と中露の対立で「機能不全」が続く国連安全保障理事会について「平和を維持し、戦争を仲介によって終わらせ、危険な兵器の拡散を防ぐという役目に立ち戻る必要がある」と改革の必要性を強調。途上国に対して、クリーンエネルギーへの転換やデジタル化の支援を続ける重要性も訴えた。
演説の最後では、今年7月に民主党内からの圧力を受けて再選を断念した経緯を振り返り、「引き際」を説く場面もあった。「もっと成し遂げたいことはある。だが、大統領の仕事よりもさらに国を愛している。国を前に進めるために、新たな世代の指導者の出番だと判断した」
バイデン氏自身も出馬断念を受け入れるまで曲折があったが、各国首脳に対して「忘れてはいけない。私たちが人々に奉仕しているのであって、逆ではない。権力にとどまるよりも重要なことがある。それは、あなたの(国の)人々なのだ」と訴えかけた。【ワシントン秋山信一】
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