聴衆に向けて演説するスリランカのウィクラマシンハ大統領=スリランカの最大都市コロンボで2024年9月18日、ロイター

 スリランカで21日、大統領選(任期5年)が実施される。2年前に国家財政が破綻して前政権が崩壊してから初の直接選挙で、ウィクラマシンハ大統領の経済再建策に対する評価が争点となっている。スリランカ国内の経済状況や大統領選の注目ポイントについて、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の荒井悦代・南アジア研究グループ長に聞いた。

 ――スリランカは2022年4月、対外債務不履行(デフォルト)を表明しました。経済危機以降、政治・経済状況はどう変化しましたか。

 ◆2年前、深刻な経済危機によって当時のラジャパクサ大統領が国外逃亡し、議会で選ばれたウィクラマシンハ氏が残りの任期を引き継ぐ形となりました。誰も引き受けたがらない大統領職に就き、国際通貨基金(IMF)からの支援を取り付け、緊縮財政路線を進めるなどしました。

 その結果、極度に減少した外貨準備高が回復するなど、さまざまな経済指標で改善がみられ、うまく経済を立て直しているように見えます。

 ――現政権に対する国民の評価はどうですか。

 ◆国民の人気は高いとは言えません。2年前よりインフレ(物価上昇)の状況が改善したとはいえ、燃料費やガス、水道代などは依然として高いままで、国民は不満を募らせています。

 ウィクラマシンハ氏自身、首相を6回務めた昔ながらのエリート政治家であり「民衆の気持ちを分かっていない」との声が上がっています。これまで、与党であるラジャパクサ一族の政党と連携してきたこともあり、国民は従来の古い政治体質に嫌気がさしているとの見方もあります。

 ――大統領選の争点は。

 ◆政権が進める緊縮財政路線に対する評価や今後の経済運営の進め方が焦点になるとみられます。

 経済に関する論点の一つは、外貨をどう獲得していくかです。お茶や衣料品は有名ですが、1970年代後半の経済自由化以降、大きなインパクトのある輸出産業が成長しないまま現在に至っています。

 確固たる産業がない中、スリランカ政府は無計画で債務に依存し、新型コロナウイルスによる打撃や経済失策なども絡んで22年の経済危機に結びついたと指摘されています。

 今回の大統領選では、数十年続いてきたスリランカの経済の弱点を克服できる可能性のある候補を選ぶという意味でも注目されています。

 もう一つは、長年引きずってきた汚職問題があります。スリランカでは「国の屋台骨を揺るがす」と言われるほど汚職が深刻で、問題の解決が強く望まれています。

 ――大統領選には40人近くが名乗りを上げる中、スリランカ研究機関の世論調査では、野党の2候補が優位にたち、現職は3番手にとどまっています。

 ◆今回は現職を含めて三つどもえの展開と言えます。世論調査の結果が伝えられていますが、浮動票を考慮すると実際にどの候補が優勢かは読めません。

大統領選に立候補した国民の力(NPP)のディサナヤカ氏=スリランカで2024年9月17日、ロイター

 3候補のうち、野党・国民の力(NPP)が擁立するディサナヤカ氏は、クリーンな印象で汚職の追及や排除が期待されています。統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首は大統領だった父を持ち、現在は反政権を掲げ一定の支持を得ているとみられます。

大統領選に立候補した統一人民戦線(SJB)のプレマダサ氏=スリランカの最大都市コロンボで2024年9月18日、ロイター

 野党候補の2人は、現政権がIMFと合意した財政再建計画の見直しなどにも言及しています。

 3候補の他に、議会最大勢力のスリランカ人民戦線(SLPP)は、四半世紀に及ぶ内戦を終結させたマヒンダ・ラジャパクサ氏の息子ナマル氏を擁立しましたが、今のところ支持の広がりはみられません。

 ――選挙の結果は外交にどう影響しますか。

 ◆インド洋のシーレーン(海上交通路)の要衝に位置するスリランカを巡って、これまでにインドと中国が影響力を争ってきました。

 南アジアでは政権次第で「親中」「親印」の見方をされますが、財政再建の途上にあるスリランカは双方の国々と協調していく必要があり、外交政策がどちらかに大きく傾くことはないと考えます。【聞き手・松本紫帆】

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