レバノンに拠点を置くイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の戦闘員らが使うポケットベル(ポケベル)やトランシーバーが爆発した事件は、ヒズボラと敵対するイスラエルの関与が指摘されている。中東屈指の軍事力を誇るイスラエルですら恐れるヒズボラとはどんな組織なのか。
破壊されたイスラエル軍の戦車。さびついた砲台。標高約1000メートルの山の頂上には、戦果を「誇示」するようにイスラエル側から押収した兵器が並べられていた。ヒズボラがレバノン南部ムリータに2010年に開設した「抵抗博物館」だ。
「この山の一帯は、00年まで続いたイスラエルとの戦闘の前線でした。殉教者たちの姿を知ってほしいのです」。記者が18年11月にムリータを訪れた際、博物館職員の男性はそう説明した。
ふと上空に轟音(ごうおん)が響き、山頂にいた人々が一斉に空を見上げた。
「イスラエル軍機が飛んでいる音だ」と周囲のレバノン人たちが口々に話した。「領空侵犯なんて日常茶飯事。公然の秘密です」。24年の現在ほどの衝突はなかった18年時点でも、イスラエル国境に近いレバノン南部はこのような緊張状態にあった。
ヒズボラとは、アラビア語で「神の党」の意味だ。イスラエルや米国からはテロ組織に指定されているが、レバノン国内では合法的に政党を持ち、議会での議席もある。拠点とするレバノン南部では特に根強い大衆人気を誇る。
博物館の土産物売り場では、ヒズボラ指導者ナスララ師のキーホルダーと、ヒズボラのロゴ入りTシャツ・帽子がセットで約1000円の値段で売られていた。
イスラエルが恐れるのは、ヒズボラの戦闘能力の高さだ。米中央情報局(CIA)によると、戦闘員は予備役含め5万人。「国家でない組織としては中東最強」(英BBC放送)とされ、15万発のロケット弾も保有するとみられている。
イスラエルは1982年にレバノンに侵攻。これに抵抗する組織として創設されたのがヒズボラで、同じシーア派のイランの支援を受けている。戦闘の末、レバノン南部に駐留していたイスラエル軍は00年に撤退した。
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスはスンニ派だが、ヒズボラとハマスは同じ「反イスラエル」の立場で連携を深めている。【ロンドン篠田航一】
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