カンボジアと中国の軍事協力が深化している。カンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにした。中国の支援で拡張工事が進む南西部のリアム海軍基地には、昨年末から中国海軍の艦船が停泊を続けているとされる。米国などは支援の「見返り」として、中国の海外拠点化が進むことを警戒する。
英字紙クメール・タイムズによると、供与はカンボジアの要請に基づくもので、新造のコルベット艦2隻が早ければ来年にも引き渡される。隣国タイとの国境問題がくすぶるカンボジアにとって、沿岸警備のためにも軍備の増強が課題だった。
リアム海軍基地の拡張工事も近代化の一環で、中国の支援を受けて2022年に着工した。基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝にあることから、これまでも臆測を呼んできた。19年には米メディアがカンボジアと中国の間で独占使用の合意があると報じ、当時首相だったフン・セン氏が「憲法は自国内に外国の基地を設けることを認めていない」と強く否定する一幕があった。
ところが、今年4月に米戦略国際問題研究所の「アジア海洋透明性イニシアチブ」が、中国海軍の艦船2隻が23年12月から基地に停泊していることを衛星写真の分析で確認したと発表。6月には米国のオースティン国防長官がプノンペンを訪問し、フン・マネット首相や国防相らと会談した。停泊理由を訓練のためと説明するカンボジア側にくぎを刺したとみられる。
カンボジアは国際空港や高速道路などのインフラ整備を中国からの投資や援助に頼り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に中国寄りとされる。中国が領有権を主張する南シナ海問題でも、当事国のフィリピンやベトナムなどから距離を置いてきた。
中国との軍事協力について、王立プノンペン大東南アジア研究センターのチャイ・リム客員研究員は「カンボジアが軍備の近代化を進めるには他国の支援が欠かせない。だが、人権状況を問題視する米国の支援は期待できず(内政不干渉の)中国に頼らざるをえない状況だ」と解説する。
一方で、フン・マネット氏は昨年8月の就任後、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む。欧米で教育を受けた経歴を強みに欧州や日本などの首脳らと会談を重ね、経済や安全保障分野での協力を協議してきた。政敵の弾圧といった人権問題を脇に置いて外交関係を広げたいカンボジアが譲歩を引き出せるのか、基地の工事完了後に中国以外の国の艦船の寄港を許可するのかが焦点になりそうだ。【バンコク武内彩】
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