9月10日に開かれた米大統領選の候補者討論会は、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領の初対決が注目されたが、主催者であるABCニュースの司会者も主役級の存在感を見せた。
「(中西部オハイオ州)スプリングフィールド市で、彼ら(移民)は犬を食べ、猫を食べ、住民のペットを食べている」。トランプ氏は不法移民対策に言及した際、ショッキングな内容を訴えた。
これに対して、司会者は「明確にしておきたい」と前置きして「ABCは市に取材したが、『移民にペットが傷つけられている』という信頼できる情報はないとのことだ」と指摘した。
トランプ氏が「テレビで人々が言っているのを聞いた」と言い逃れると、司会者は「私がつかんだ情報はテレビからではなく、市当局者からだ」と強調。「テレビで見た」と食い下がるトランプ氏を、「もう一度言う。市当局者はそんな証拠はないと言っている」と制した。
今回は何度も繰り返されたファクトチェックだが、6月のバイデン大統領とトランプ氏との討論会では見られなかった。主催者のCNNの司会者は両者の主張を引き出すのに徹し、民主党からは「トランプ氏の放言を許した」と批判された。6月の経緯も踏まえて、入念にファクトチェックの準備をしたABCの「わな」にトランプ氏はまんまとはまった。
ただ、矛先がトランプ氏に集中し、ハリス氏の誇張や逃げ腰への「突っ込みが甘い」との印象も残した。トランプ氏が追及されやすかったのは、発言内容が想定内だったからだ。「移民がペットを食べている」との陰謀論も、討論会の数日前からSNSで拡散。トランプ氏は直前にペットや動物に囲まれる自身の合成画像をSNSに投稿しており、「討論会で言うつもりだ」と予想がついた。対照的に、大統領候補になってから初の討論会だったハリス氏は、具体的な発言の予測がつきにくく、チェックする側の準備が難しかった面がある。
しかし、ハリス氏も「不法移民対策などに問題があるのを分かっていたのに、副大統領として3年半何をしてきたのだ」といった質問には正面から答えていない。討論会は予想以上の出来だったが、厳しい追及を受けた場合の対応力にはまだ疑問が残る。
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