ユニークな研究に贈られる『イグ・ノーベル賞』が発表され、今年は生理学賞に日本の研究チームが選ばれました。評価されたのは、ブタなどによる実験で「多くの哺乳類にお尻で呼吸する能力があることを発見した」ことです。
■イグ・ノーベル賞 日本人が受賞
ノーベル賞のパロディーとして始まったイグ・ノーベル賞。「人を笑わせつつ、考えさせる研究」それがこの賞の目的です。今年、生理学賞を受賞したのは、東京医科歯科大学の武部貴則教授(37)らの研究グループ。ブタなどの哺乳類がお尻で呼吸できることを発見し、評価されました。
イグ・ノーベル賞生理学 武部貴則教授
「肛門の潜在能力を信じてくださり、ありがとうございます」
日本人がこの栄誉を手にするのは18年連続のこと。去年は明治大学・宮下芳明教授らのグループが「電気の刺激で味覚がどう変わるか」を調べた研究で受賞。その後、企業と協力し、今年5月に『塩味を濃く感じられるスプーン』として実用化されました。
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■「お尻で呼吸」研究の“可能性”■「お尻で呼吸」研究の“可能性”
なぜ、武部教授らはお尻で呼吸できることを研究し始めたのでしょうか。ヒントはドジョウでした。
イグ・ノーベル賞生理学 武部貴則教授
「ドジョウにインスピレーションを得た。魚では肛門から酸素を吸収すると知られていたメカニズム」
水中では一般的な魚類と同じようにエラ呼吸をしているドジョウ。腸に蓄えた空気から酸素を取り込み、残った気泡を肛門から出す『腸呼吸』を行います。
研究は2017年からスタート。当初は直接、酸素ガスを哺乳類の腸内に注入する方法から試したといいます。しかし、酸素の吸収量が少ないなどリスクが多く、別のアプローチを模索し続けていました。
イグ・ノーベル賞生理学 武部貴則教授
「(研究開始から)数年ぐらいしてコロナの状況がやってきて。私の父もICUで人工呼吸器管理をされた。人工呼吸器はかなり激しい、侵襲の高い負担の大きい処置。私の父の場合、片方の肺が別の病気で使えない状態。どうしても口からだけの呼吸ですと、もしかしたら命を落とすかもしれないリスクと向き合うことになる」
呼吸の補助をするだけではなく、口以外から酸素を届けられないか。そこで着目したのが液体でした。
酸素を多く含む特殊な液体をブタなどの動物の腸に、お尻から送り込む実験を行うと、どの動物も血液中の酸素が増え、ブタは呼吸不全の症状が改善したといいます。
液体を使った“腸呼吸”。臨床実験もすでに始まっていて、2028年ごろには国内で医療機器への実用化の可能性があるということです。
イグ・ノーベル賞生理学 武部貴則教授
「既存の方法で、チューブで酸素を口から送り込むのをやりながら“腸呼吸”で少しの時間でもサポートできたら、重い合併症に悩まなくても済むのにという場面がありますので。将来的には子どもの領域にも貢献していきたいなと思っています」
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■呼吸不全の「新たな治療法」へ■呼吸不全の「新たな治療法」へ
今回、武部教授らのグループが受賞した“腸呼吸”の研究は、医療の未来を変える可能性もあります。どんな治療に活用できるのか、武部教授の研究の事業化を目指す、EVAセラピューティクス代表取締役・尾崎拡さんに聞きました。
【肺がうまく機能していない新生児の酸素供給】
赤ちゃんの場合、腸からの少量の酸素補給でも十分、救済効果が期待できるということです。
【のどを詰まらせるなど、肺呼吸が難しい患者の延命措置】
成人で一番ニーズが高いのは、災害時などの救急だということです。
【人工肺『ECMO(エクモ)』の代替】
将来的にはECMOの代替として、呼吸不全の症状を緩和することを目指しているといいます。
受賞した武部教授は再生医学が専門で、iPS細胞からヒトの臓器を作るなど、再生医療の最前線で活躍する研究者です。イグ・ノーベル賞受賞について、武部教授に聞きました。
イグ・ノーベル賞生理学 武部貴則教授
「最初、連絡が来た時は正直、戸惑いの方が大きかったです。ただ、人を笑わせ、考えさせる研究という趣旨を聞いて感動しました。授賞式後は今までにないほどの反響が各所からあって、改めて受賞してよかったなと思います」
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