投票日まで残り2カ月を切ったアメリカ大統領選。トランプ氏とハリス氏は日本時間の11日、テレビ討論会で初の直接対決を行いました。選挙の勝敗に大きく影響するとされるテレビ討論会、果たして初対決の軍配はどちらに上がったのでしょうか。
■トランプ氏 現政権批判に集中
「アメリカを再び偉大に」と訴えるトランプ氏は、撤退したバイデン大統領とハリス氏を結び付け、民主党政権の批判をする場面が目立ちました。
共和党 トランプ候補
「彼女に計画がない。バイデン政権の受け売りだ」
移民問題をめぐってはこんな発言も…。
共和党 トランプ候補
「オハイオ州スプリングフィールドでは、移民たちが犬や猫を食っているんだ。住民のペットが食われているんだ。これが今の国のあり様で実に情けない」
司会
「市の当局に確認したところ、移民コミュニティー内において個別の事例としてペットに対して危害や虐待が加えられたと信憑性のある報告は上がっていない」
共和党 トランプ候補
「ペットの犬が食用になっていると住民がテレビで話していた。当局はそうじゃないと言いたいだろうが、住民がテレビで言っていた…」
司会
「繰り返しますが、市によるとそういった証拠はありません」
共和党 トランプ候補
「いずれ分かる」
民主党 ハリス候補
「極端な話ですね。こういう話が出るからこそ、共和党の200人が私を支持している」
■ハリス氏 政策明示でアピール
対するハリス氏。副大統領としての印象が薄い部分もあり、今回は国民への“自己紹介”を戦略の中心にすえたようでした。
民主党 ハリス候補
「私は中流階級の出です。アメリカ市民の向上心と志、夢を信じています。だからこそ『機会の経済』と名付けた政策を練り上げました」
討論会冒頭から、子育て家庭に6000ドルの減税、新規の中小企業への5万ドルの税額控除など、具体的な政策を打ち出します。おととしに連邦最高裁が否定した「中絶の権利」。自分が大統領になったら復活させるとも明言しました。
民主党 ハリス候補
「犯罪によって肉体を汚された人が自分の身体をどうするか決める権利がないのは非道徳的。政府を前に信条を捨てる必要はないし、トランプ氏が女性に身体をどうしろと言うべきでもない」
トランプ氏からの挑発にも冷静に返していました。
共和党 トランプ候補
「彼女はバイデンだ。距離を置きたいようだが、バイデンそのものだ。史上最悪のインフレによる景気の悪化は彼女のせいだ」
民主党 ハリス候補
「反論させて下さい。見ての通り、私はバイデンでもトランプでもなく、目指しているのは新しい世代のリーダーシップです」
ハリス氏は5日間ホテルにこもって、スタッフが扮する“仮想トランプ”を相手に討論の練習をするほど、入念に下準備をしてきたといいます。
■“ハリス氏 勝利”も無党派層は
100分を超えた今回の討論会。CNNの調査では、見ていた63%が「ハリス氏の勝利」だと答えました。
ハリス支持
「中立でしたが、今はハリス氏を支持します。全体的にハリス氏が勝ったと思う」
「ハリス氏が素晴らしかった。しっかり準備していたと思います。トランプ氏に動揺が見えた場面があり、4年前よりずっと老け込んだ感がある。話が冗長になりがちで、脈絡も明確ではなかった」
一方、トランプ氏は終了後、メディアの前に姿をあらわす異例の対応をみせました。
共和党 トランプ候補
「私がやったベストの討論会だったと思う。興味深かったし(民主党の)弱さが露呈し、哀れだった。ハリス氏はきょう散々だったので、もう一回やりたいそうだが」
約3億人のフォロワーをもつ、歌手のテイラースウィフトさんは、討論会終了後にハリス氏支持を表明しました。
テイラー・スウィフトさんのInstagram
「彼女なら守るべき権利や大義のために闘ってくれます。ハリス氏は統率力のある優れた指導者だと思うし、私はアメリカが混乱ではなく、平穏によって導かれれば、もっと多くを成し遂げられると信じています」
無党派層はどう見たのか、討論会の舞台、激戦州ペンシルベニアで聞くと…。
司会
「討論会でトランプ氏が勝利したと思う人は?4人ですかね。ハリス氏だと思う人は?多いですね」
無党派
「ハリス氏のほうがずっと前向きで、礼儀正しいと強く感じました。限られた時間のなかで、自分の政策を説明しようとしていた」
ただ、全ての人の決定打になったかというと、そこはまだ言い切れないようです。
無党派
「討論会では両候補の立場が不透明のまま終わってしまった。もっと情報や事実が明確になれば、投票先を決めやすくなると思う」
「討論会では候補者への追及が足りませんでした。詳細に踏み込む時間がなく、ファクトチェックもできません。知りたいのは両者の立場で、聞こえのいいフレーズではない」
■ハリス氏の狙いは“ダブルヘイター”
テレビ討論会を受けて有権者の印象はどう変わったのでしょうか。
CNNの世論調査によると「討論会の勝者はどちらだったか?」という質問に37%がトランプ氏、63%がハリス氏と回答しました。
アメリカのブックメーカーでは、大統領選の勝者が賭けの対象にもなっています。討論会前はトランプ氏51.9%、ハリス氏46.4%でしたが、終了後にはトランプ氏48.7%、ハリス氏48.9%と五分五分に並びました。
どこが“ハリス氏優位”に働いたのでしょうか。アメリカ政治が専門の慶応義塾大学・渡辺靖教授は両者のこのような発言に注目しています。
トランプ氏は「再び偉大なアメリカを」と“変わらない”主張を繰り返していました。それに対してハリス氏は「私はトランプでもバイデンでもない」と“新しさ”を強調していました。
慶応義塾大学 渡辺靖教授
「無党派層にはトランプ氏もバイデン氏も嫌いな『ダブルヘイター』が数多くいる。『高齢の2人では前進しない』という不満があるなか、彼らよりも若い女性で、黒人・アジア系の出自という“新しさ”が共感を得られたのでは」
今回の討論会で、トランプ氏は一切、ハリス氏と目を合わせませんでした。また、トランプ氏の呼び方も特徴的でした。「She(彼女)」と呼び、ハリス氏の名前をほとんど口にしませんでした。こうした態度について、渡辺教授はこうみています。
慶応義塾大学・渡辺靖教授
「ハリス氏を『She』と呼んだり、目線を合わせないのは“眼中にない”アピール。バイデン政権に対する怒りや不満をあらわにすることで、態度を決めかねている有権者の共感を得ようとした」
■トランプ氏“強気”の理由は
討論会の印象が大統領選の結果に直結するわけでは必ずしもないようです。CNNの世論調査にはこんなデータもあります。
「大統領としての“指導力”を信頼できるか?」という問いに対し、トランプ氏は36%が「大いに信頼」、18%が「ある程度信頼」、ハリス氏は32%が「大いに信頼」、22%が「ある程度信頼」と、討論の評価ほど差がついていません。
慶応義塾大学・渡辺靖教授
「ハリス氏のテレビ討論でのパフォーマンスは評価するが、大きな実績もなく、資質に不安が残るのでは。一方、トランプ氏は討論会で特段いい場面はなかったが、岩盤層の支持率は変わらず、共に決定打に欠けた。双方とも無党派層獲得のために、7つの激戦州での“どぶ板選挙”がカギになる」
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