11月の米大統領選の主要候補によるテレビ討論会が10日夜(日本時間11日午前)、東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれる。民主党のカマラ・ハリス副大統領(59)と共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)との初の直接対決は、選挙戦の最大のヤマ場と目されており、経済や移民、人工妊娠中絶などを巡って激しい応酬が予想される。
民主党は、6月の討論会でジョー・バイデン大統領(81)が高齢不安を露呈したことを受けて、ハリス氏に候補を差し替えた。若返りが歓迎されて世論調査での支持率を伸ばしたが、8月下旬以降は勢いが陰り、ハリス、トランプ両氏の支持率は伯仲している。
共和党から3回目の大統領候補指名を受けたトランプ氏に比べて、ハリス氏の政策や資質は有権者に十分知られていない。3~6日の米紙ニューヨーク・タイムズの世論調査でも、28%が「もっとハリス氏を知る必要がある」と回答しており、今回の討論会は自身を売り込む好機となる。
ハリス陣営は「民主主義や人権の擁護者」「未来志向」を強調し、トランプ氏との対比を印象づけようと狙っている。米メディアによると、不規則発言や誇張を交えて強引にアピールする傾向があるトランプ氏への対策を練るため、5日からペンシルベニア州ピッツバーグのホテルに滞在して模擬討論を重ねた。
一方、トランプ氏にとっては選挙戦の流れを引き戻すチャンスだ。陣営は、物価高(インフレ)や国境管理の混乱など民主党政権への有権者の不満が大きいテーマで政策論争に持ち込み、トランプ氏が大統領だった4年前と比べて「生活は良くなったか」と問いかける戦略を描く。ハリス氏が政府主導の物価抑制策を打ち出したのを受けて「共産主義者だ」との批判も強めている。
トランプ氏は、インド系と黒人の両方のルーツを持つハリス氏について「インド系だと言っていたのに突然黒人になった」と発言するなど「個人攻撃」も続けている。ただ、こうした言動は無党派層から敬遠されるとの指摘が共和党内からも出ており、討論会での対応が注目される。
討論会では、両候補が接戦州の無党派層を意識し、政策を軌道修正している点も問われる。ハリス氏は不法移民への政策を厳格化し、環境への負荷が大きいフラッキング(水圧破砕法)による石油採掘の禁止を撤回した。一方、トランプ氏も中絶や大麻(マリフアナ)の規制に関する姿勢を軟化させている。
討論会はABCニュースが主催し、90分間行われる。司会者がテーマごとに両候補に質問し、相手の回答に対する反論や補足を通じて論争を深める。テーマは両候補には事前に知らされず、原稿や発言要領も持ち込めない。即興で対応する能力も求められる。
両陣営は2回目の討論会にも前向きな姿勢を示しているが、まだ合意しておらず、今回が唯一の討論会となる可能性もある。副大統領候補の討論会は10月1日に開かれる予定だ。大統領選には環境政党「緑の党」など少数政党も候補を擁立するが、主催者が設けた支持率の参加基準を満たせなかった。【ワシントン秋山信一】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。