国連のグテレス事務総長=ニューヨークで2024年6月24日、八田浩輔撮影

 9月22、23日に米ニューヨークの国連本部で「未来サミット」が開かれる。加盟国は、不確実性が高まる時代における国連や多国間協力のあり方を幅広く見つめ直す成果文書「未来のための協定」を採択する見通しだ。開催を前に、グテレス事務総長が毎日新聞に寄稿した(日本語訳は国連広報センター)。

国連本部で9月22、23日に「未来サミット」

 今月開催される「未来サミット」では、各国の指導者たちがグローバル協力の基本要素の改革について合意する予定だが、今ニューヨークでは最終交渉が行われている。

 国連がこの特別なサミットを招集する理由には、一つの明確な事実がある。すなわち、グローバルな課題が、それらを解決するために設計された制度を上回る速度で進行していることだ。

 それは、私たちの周囲の至るところに見てとれる。激しい紛争や暴力が恐ろしい苦痛をもたらし、地政学的分断が広がり、不平等や不公正がはびこり、信頼をむしばみ、苦しみを増幅させ、ポピュリズムや過激思想を増大させている。貧困、飢餓、差別、女性蔑視、人種主義といった古くから存在する課題は、新たな形を取りつつある。

 一方で、私たちは、勢いを増す気候変動によるカオス(大混乱)や環境破壊から、倫理的・法的な空白の中で発展している人工知能(AI)のようなテクノロジーに至るまで、人類の存亡に関わるレベルでの新たな脅威に直面している。

 未来サミットでは、こうした課題の解決策が私たちの手の中にあることを認識する。ただし、世界の指導者たちだけが実現できる、システムのアップデートが必要だ。

国際意思決定、時流に取り残され

 国際的な意思決定は、時流に取り残されたままだ。グローバルな制度やツールの多くは、1940年代の産物だ。それは、グローバル化の前であり、脱植民地化の前、普遍的人権やジェンダー平等が広く認識されるより前、人類が宇宙へ旅立つよりも前、そしてサイバースペースなど存在しなかった時代だ。

 国連安全保障理事会において、第二次世界大戦の戦勝国がいまだに優位性を保っている一方で、アフリカ大陸全体で常任理事国は一カ国もない。国際金融の構造は、開発途上国に不利なものとして重くのしかかり、開発途上国が困難に直面した際にセーフティーネットを提供できず、結果としてそれらの国々は債務におぼれ、自国民に投資すべき資金が枯渇している。

 また、グローバルな制度は、市民社会から民間セクターまで、今日の世界の主要プレーヤーの多くに対して限られた活動空間しか提供していない。未来を担う若者たちの姿はほとんど見えず、将来世代の利益は代表されないままだ。

 メッセージは明確だ。私たちの祖父母のために作られたシステムでは、私たちの孫の世代にふさわしい未来を創ることはできない。未来サミットは、21世紀にふさわしい形で多国間協力を再起動させる機会となる。

解決策は「新たな平和への課題」

 私たちが提案している解決策の一つとしては、国連安保理も含め、紛争を予防し、終結させるための国際的な制度やツールの更新に焦点を当てた「新たな平和への課題」が挙げられる。「新たな平和への課題」は、核兵器や大量破壊兵器の廃絶に向けた取り組みを改めて推進し、安全保障の定義を拡大して、ジェンダーに基づく暴力や犯罪組織による暴力を含めることを求めている。また、将来的な安全保障上の脅威を考慮しながら、戦争の性質の変化や新たなテクノロジーの兵器化のリスクを認識する。例えば、人の判断なしに人間の生死を左右する決断を下す、いわゆる自律型致死兵器システム(LAWS)を違法とみなす世界的な合意が必要だ。

 国際金融機関は、今日の世界を反映し、債務、持続可能な開発、気候変動対策といった課題について、より強力な対策を主導できる態勢を整えなければならない。つまり、国際開発金融機関の融資能力を高めるとともに、開発途上国が手ごろな金利ではるかに多くの民間資金を利用できるように、国際開発金融機関のビジネスモデルを変える具体的な方策によって。

 このような資金がなければ、開発途上国は、私たちの未来に対する最大の脅威である気候危機に取り組むことはできないだろう。開発途上国は、地球を破壊する化石燃料からクリーンで再生可能なエネルギーに移行するための資金を、緊急に必要としている。

 各国の指導者が強調したように、国際金融構造の改革は、持続可能な開発目標(SDGs)において切実に必要な進歩を活性化させる鍵でもある。

自由で安全なデジタルの未来のために

 またサミットは、世界に影響を与える新たなテクノロジーにも焦点を当てる。デジタル格差を解消し、すべての人々にとって開かれた、自由で安全なデジタルの未来に向けた共有の原則を確立する方法を模索する。

 AIは、私たちが理解し始めたばかりの用途とリスクをもつ革新的なテクノロジーだ。国連は各国政府に対し、テクノロジー企業、学術界、市民社会とともに、AIのリスク管理の枠組みとその害の監視や軽減、その恩恵の共有に取り組むよう、具体的な提案を行ってきた。AIのガバナンスは、富裕国だけに任せておくことはできない。それにはすべての国々の参加が必要であり、国連では、人々を結集するプラットフォームを提供する用意がある。

 人権とジェンダー平等は、これらすべての提案を結ぶ、共通の糸だ。あらゆる人権と文化的多様性を尊重し、女性と女児たちの完全な参画とリーダーシップを確保することなしに、グローバルな意思決定を改革することはできない。私たちは、女性を権力から排除している法律、社会、経済面における歴史的な障壁を取り除くための、新たな取り組みを求めている。

世界の指導者は「チャンス」をつかめ

 40年代に平和を築いてきた人々が作り上げた制度は、第三次世界大戦の防止に貢献するとともに、多くの国々を植民地化から独立へと導いた。しかし、今日ほどの世界情勢の変化は、想像しなかっただろう。

 未来サミットは、21世紀と多極化する世界に適合するより効果的で包摂的な制度とグローバル協力のためのツールを構築するチャンスだ。

 私は、そのチャンスをつかむよう、世界の指導者たちに要請する。

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