米司法省は4日、ロシア政府が11月の米大統領選に干渉するための情報工作で使用していた32のドメイン(インターネット上の住所)を差し押さえたと発表した。発表によると、プーチン露大統領の側近のキリエンコ大統領府副長官が工作を統括し、メディアを偽装して、ウクライナ侵攻などを巡ってロシア寄りに米世論を誘導しようとしていた。
司法省によると、露政府は遅くとも2022年以降、露企業に協力させて、「ドッペルゲンガー(分身)」と称される作戦を展開してきた。ワシントン・ポスト紙やCNN、FOXニュースなど米国の主要メディアに似せた偽サイトを作成。人工知能(AI)も活用して作成した偽の記事や映像を流して、世論の誘導を図った。
一例として、「ホワイトハウスの計算違い」という見出しの偽記事では「ウクライナへの支援継続は失敗だと米国の指導者が認識する時だ」と訴えていた。米国民を装ってネット交流サービス(SNS)のアカウントを作り、偽記事を紹介する投稿もしていた。
米当局が入手した「古き良き米国」と題した情報工作の内部文書は、米大統領選に向けて「ウクライナ侵攻への対処よりも米国内の問題解決に税金を使うべきだ」という世論を喚起することがロシアの利益になると説明。情報工作の対象として、接戦州の有権者、中南米系、ユダヤ系などを挙げ、「目的」の欄には共和党のトランプ前大統領の当選を目指すと示唆する記述もあった。
また、司法省は4日、身分を隠して米国のインフルエンサーと契約し、ネット番組を通してロシアに有利な情報を流布していたとして、露国営メディア「RT」のロシア人社員2人が外国エージェント登録法違反などの罪で連邦地裁に起訴されたことも明らかにした。
RT社員らは、100万人以上の登録者がいるユーチューバーと月40万ドル(約5700万円)などの条件で契約し、制作した動画の司会者に起用。2000件近い動画を公開し、ユーチューブだけでも延べ1600万人以上が視聴した。
今年3月にモスクワ郊外で起きた銃乱射事件については、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)ではなく、ウクライナが関与したとする「陰謀論」を流していた。
ガーランド米司法長官は「今回のドメイン差し押さえは、選挙干渉や民主主義を弱体化させる試みには、積極的に対抗していく姿勢を明確にするものだ」と強調した。
米大統領選を巡っては、米当局は16年と20年の選挙でロシアが介入したとみている。今回は、イランが民主・共和両党の陣営にハッキングを仕掛けた疑いも浮上している。【ワシントン秋山信一】
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