ブラジルでのリチウム鉱石の採掘風景(三井物産提供)

電気自動車(EV)の電池などで需要が急拡大しているリチウムを巡り、大手商社が安定確保にむけた取り組みを加速させている。鉱山開発だけでなく、産出した鉱石からEV電池向けの原料へと加工する精製を手掛けることも目指す。鉱石は豪州や北米、南米などに眠るが、精製は中国に集中しており、経済安全保障上のリスクを低減させるため、精製工程まで一貫してできる体制を整備する。

2030年には需要4倍に

米アトラスがブラジルの鉱山から採掘したリチウム鉱石(三井物産提供)

リチウムは脱炭素化の流れを受けたEVの普及に伴い、世界で需要が急拡大しており、2030年には22年の4倍になるといわれている。そこで三井物産は4月、ブラジルのリチウム鉱山開発に参加するため、この鉱山開発を担う米資源開発会社、アトラス・リチウムの第三者割当増資を3千万ドル(約45億円)引き受けた。今後5年間でEV用で約100万台に相当する31万5千トンのリチウム鉱石を引き取る。アトラスはブラジル最大のリチウム鉱区を保有しており、今年10月以降に生産を始める予定だ。

三菱商事も3月にカナダの鉱山開発会社、フロンティア・リチウムが進める「PAKリチウムプロジェクト」への参加を発表した。年間生産量はEV電池に使う炭酸リチウム換算でEV約30万台分を見込む。

リチウム鉱山はカナダ中東部のオンタリオ州にあり、資源量は5800万トンほど。日本企業が参加する鉱山では最大になる。2500万カナダドル(約28億円)を投じて権益の一部を取得し、電池向けの生産は2030年ごろを目指す。

8割を中国に依存

三菱商事、三井物産ともにリチウム権益を取得するのは初めてとなる。大手商社でリチウム権益を得ているのはアルゼンチンから調達するトヨタ自動車グループの豊田通商のみで、新たに2社が加わることで、三井物産の橋本明信新金属・アルミ部長は「経済安全保障の観点からプラスになる」と話す。

リチウムは主に塩湖にたまる「かん水」か、鉱石を精製してつくる。国別での産出量は豪州、チリに次いで中国が3位と続くが、精製施設は中国が多い。

精製してつくるEV電池用の原料には炭酸リチウムと水酸化リチウムの2種類があるが、このうちEV電池の高容量化に適している水酸化リチウムは、21年時点で世界の輸出量の半数超を中国が握る。特に日本は水酸化リチウム調達の8割を中国に依存しており、過度な依存がサプライチェーン(供給網)上の課題となっているのだ。

日本総合研究所調査部の熊谷章太郎主任研究員は「リチウムは産出国が限られ供給が途絶えるリスクがある。今後も同様の動きが一定程度出てくるだろう」としており、今後も調達先の多様化が進みそうだ。(佐藤克史)

EVのカギ握るリチウム
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