中国国旗=ゲッティ

 中国の夏休みシーズンの映画興行収入が前年から半減する急激な不振に直面している。北米に次ぐ世界第2位の映画市場にどんな異変が起きているのか。現地報道では国内映画でヒット作が少なかったことや、映像の楽しみ方の変化、消費低迷の深刻化など複合的な要因が指摘されている。

 中国メディアによると、夏休みシーズン(6~8月)の国内映画興行収入は2023年に206億元(約4300億円)と過去最高を記録したが、24年は23日時点で107億元(約2200億円)で前年の52%にとどまる。新型コロナウイルス流行前の19年の夏休みは176億元(約3700億円)で、それにも遠く及ばない。

 中国では映画は娯楽として根強い人気を誇り、北米市場に迫る勢いで成長を遂げてきた。コロナ禍の打撃は大きかったものの、23年の年間興行収入は549億元(約1兆1500億円)で、19年の85%の水準にまで回復していた。

 ところが今年は2月の春節(旧正月)期間こそ過去最高の興行成績で幸先の良いスタートを切ったものの、その後は興業収入が減り始め、24年上半期全体では前年同期より1割近く減少してしまった。

 追い打ちをかけるように、かき入れ時の夏休みの低迷が著しい。その理由について、まず「作品の質が今ひとつで、市場をけん引する大ヒットに恵まれなかった」との指摘がある。有名監督や人気俳優を起用した作品は多かったものの、ヒット作の目安とされる10億元(210億円)の大台を超えた作品は2本のみ。

 製作費3億8000万元(約80億円)をかけ、7月に公開されたジャッキー・チェンら主演のアクション大作「伝説」は最初の5週間で8000万元(約17億円)にとどまった。パリ・オリンピックに関心が集まったことも影響したとされる。

 また、映画に関するSNS(ネット交流サービス)の投稿を見ると「景気が悪くて、映画を見る回数が減った」との反応が目についた。中国の映画チケットの平均価格は約40元(約840円)。特段に高いとは言えないが、ファストフード店ならばおなかを満たせる金額だ。以前は気にならなかった値段が、不況下ではずしりと負担感が増していると考えられる。

 さらに、映像エンターテインメントの楽しみ方がスマートフォン(スマホ)中心になっている時代の変化も見逃せない。特にここ数年は1話あたり数分から十数分の短いドラマで構成する「ショートドラマ」の市場規模が毎年、倍増する勢いで急拡大している。中国の調査会社の報告書によると、スマホの動画アプリを通じて課金されるショートドラマ市場は23年に370億元(約7800億円)を突破。27年には1000億元(2兆1000億円)を超えると予想している。

 一度に課金される金額が小さく交通費もかからない動画コンテンツが、日本と同様、タイムパフォーマンス(タイパ、時間対効果)を意識する若者を引きつけ、それが映画館から足を遠のかせる一因となっている可能性がある。いずれにしろ、中国経済と同じように映画市場も曲がり角を迎えていることは間違いないようだ。【北京・河津啓介】

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