南アジアに位置する国、バングラデシュ。面積は日本の4割程度ですが、人口はおよそ1億7000万。今月初め、15年続いた長期政権が倒れ、国のトップが国外逃亡する事態になりました。

きっかけは学生たちが政策の不平等に声を上げたことでした。新たなリーダーたちはこの国をどう変えようとしているのか。現地で話を聞きました。

「完全に壊されている」首相が国外逃亡…現地では何が

バングラデシュはインドから分離した飛び地国家のパキスタンに属していたが、1971年に独立した。

かつては、飢饉にあえぐ世界で最も貧しい国の一つだった。近年、豊富な労働力を背景に急激な経済成長を遂げ、今ではインドの影響もあり、IT産業でも存在感を増している。

一方で、大卒者は就職難で若者たちの不満が政権トップのシェイク・ハシナ首相に向かった。デモのきっかけは公務員の採用枠をめぐり、政権に近い人々を優遇する制度への抗議だった。

2024年7月16日には、抗議する学生が警察に銃撃され、その後死亡した。それを撮影した動画がSNSで拡散されると、デモは一気に全土へ広がった。

8月5日、軍の説得を受けたハシナ氏はインドへと逃亡。15年にわたる長期政権が幕を閉じた。

政権の終焉からわずか4日後、現地に金平茂紀キャスターが入った。

警察の銃撃を受けた人たちが運び込まれた市内の病院。いまも100人以上が入院している。

男性は、職場から帰宅する途中、銃撃されたという。

銃撃された市民
「警察の無差別な銃撃からは、野良犬も路上生活者も、ストリートチルドレンも逃げることができませんでした」

金平キャスター
「警察の警備についてどう思いますか?」

銃撃された市民
「いまは、国民は警察のことを必要としていません。警察が、自国の国民を裏切ったんですよ。ハシナ前首相の命令で、こんなことをしでかしたんです」

家の中にいたのに撃たれたという学生も。

銃撃された学生
「寝室にいたら、突然、銃弾が飛んできました。私の左足を貫通して、妹の右足にも当たりました」

自宅は建物の9階。警察のヘリコプターから銃撃された可能性があるという。

銃撃された学生
「デモがピークの時は、インターネットが何日も遮断されて、何も知ることができませんでした」

国連人権高等弁務官事務所の報告によると、この1か月で、死者は約650人にのぼると見られている。

金平キャスター
「完全に壊されている」

主のいなくなった首相公邸では、政権交代を喜ぶ多くの人が集まる一方、民衆の一部が暴徒化し、略奪も起きた。

金平キャスター
「公邸の入り口ですが、木が倒されちゃっていて、中に相当激しい動きがあったということが分かりますね」

「みんなの不満が爆発した」デモの原動力となった若者たち

金平キャスター
「Ekattor TV(エカトルテレビジョン)というのですけれども、略奪攻撃を受けて、焼かれた後ですね」

防犯カメラに写った、敷地内になだれ込む人々。

民間のテレビ局だが、ハシナ政権を支持し、政府寄りの放送を行っていたことで襲撃された。

中はどんな様子なのか、撮影することが許された。

金平キャスター
「スタジオがこんなに壊されちゃっていて、全部、焦げていますね、上が」

放送で使う機器などもすべて持ち出されていた。

学生たちのデモ
「条件は一つ。裁判官の辞任」

8月10日、最高裁判所の前では、ハシナ政権に近い裁判官の退陣などを求め、学生たちのデモが続いていた。

デモの参加者
「ファシストのハシナが自分のために変えた司法制度を無くせば、国民の信頼を取り戻すことができます」

デモの参加者
「多くの学生たちが犠牲になったデモです。(バングラデシュは)困難を乗り越えて、世界の模範になると信じています」

今回、デモの原動力となったのは若者たち。

中心メンバーはバングラデシュの公立大学で、最難関として知られるダッカ大学の学生だ。

デモの中心メンバー ダッカ大学の学生
「この国の政府は私利私欲に走って、国民の事をまったく考えていません。そこにみんなの不満が爆発したのだと思います」

デモの中心メンバー ダッカ大学の学生
「これまで政府の独裁に押さえ込まれてきました。それに対して立ち上がったのです。反政府を掲げてみんなが1つになれたのは、すごいことです」

デモの中心メンバー ダッカ大学の学生
「国民の多くは、(ハシナ)前首相を逃亡先から、できるだけ早くこの国に戻して、厳しい裁きが下されることを望んでいます」

ダッカ大学では、学生デモを支持した大学の教職員らが集まり、「暫定政府に何を期待するか」をテーマに緊急シンポジウムが開かれた。

デモが成功した背景には、学生たちを積極的に支えた教授たちの存在もあるという。

ダッカ大学 タンジム 教授
「バングラデシュの問題は、独立してからこれまで、優れたリーダーに恵まれなかったことにあります。この学生デモは、必ず、国を発展させる政治の出発点になるでしょう」

そして街では、多くの若者が壁にスローガンや絵を描き、自分たちの思いを表現していた。

「わたしたちのバングラデシュ、独裁政権は終わった」

この大学生は、日本で暮らしていたことがあるという。

バングラデシュの地形に国旗をあしらった絵にこめた思いとは。

大学生
「リフォームという(意味の)メッセージもあります」

金平キャスター
「バングラデシュはいま、リフォームの時代?」

大学生
「そういう風にみんなが(思っている)」

別の若者たちは、デモで不安定になった社会を支えようと動いていた。

バングラデシュには信号機が少なく、警察が普段は交通整理をしている。

しかし、デモ後は市民からの報復を恐れ、職務を放棄。代わりに若者たちが交通整理をしていた。

金平キャスター
「彼らは街の清掃活動とかもやっているということで、市民からは感謝されているという」

こうした交通整理の学生ボランティアはSNSを使って連携し、担当地区などの振り分けをしているという。

道路の真ん中で「交通ルールを守りましょう」と書かれたボードを掲げる高校生の姿も。

高校生
「新しいバングラデシュを作ろうとする運動に参加して貢献したいと思いました。自由な国になることが夢です」

軍が水や食料を差し入れていた。

警察に襲撃された人が入院する病院でも学生ボランティアが活躍。医薬品や食料、衣服など、物資を運び入れていた。

ボランティアの学生
「私たちのデモによって政府が変わりました。今後、平等な国に変えていきたいという大きな夢を持っています」

すでに市場では変化が…。

男性
「長い間、みかじめ料を取られていました」

不法行為を行っていたのは、政府ともつながっていた、ならず者たちだという。

これまで、みかじめ料が価格に上乗せされていたが、いまは…。

市民
「たくさん魚を買ったけど安くなっています。生活が楽になりますね」

若者たちのデモは街の人にどう映っているのだろうか。

市民
「暫定政権が『学生たちの声を大事にする』と言っていることが、すごくうれしい」

65歳の男性は涙ながらにこう話した。

「これは学生が導いた革命です」 暫定政権リーダー・ユヌス氏が明かす

8月8日、暫定政権が発足した。

そのトップに就任したのが経済学者のムハマド・ユヌス氏(84)だ。

「グラミン銀行」を立ち上げ、銀行の融資がおりなかった貧しい人々に無担保で少額の資金を貸し出す仕組みを作り、2006年にノーベル平和賞を受賞した。

一方、影響力を恐れたハシナ政権からは、様々な疑いをかけられ、禁固刑を言い渡されるなど、権力側の嫌がらせを受けてきた。

ユヌス氏へのインタビューを申し込んだところ、政権発足3日目に面会できることになった。

金平キャスター
「バングラデシュの迎賓館が今、暫定政府の建物として使われていると」

オフレコでの懇談だとして撮影は許されなかった。ユヌス氏にまず、聞いた。

金平キャスター
「これは革命と呼ぶことができますか?」

ユヌス氏
「これは学生が導いた革命です」

首席顧問を引き受けた経緯についても明かした。

滞在先のパリに、デモを主導した学生から、顧問就任を求める電話がかかってきたという。

ユヌス氏
「『若者が電話であなたと話したがっている』と伝えられて、私は『政権を崩壊させた若者なので、出てもかまわない』と言いました。学生は『あなただけが信頼できる人物だ』と言いました。引き受けたのは、この国の若者世代が求めたことだからです。私は彼らをなんとか助けたかった。これは私の夢じゃなく、彼らの夢なんです」

暫定政権では、今回のデモを主導した2人の大学生をスポーツと情報・通信の担当省のトップに据えた。

そのわけについては…

ユヌス氏
「私が主張しているのは、この2人だけでなく、どの省庁にも学生を配置すべきということ。もし間違った方向に機能している場合はそれを改めていきます。言論の自由もそうです。野党や若者たちは常にそれを求めてきました。さぁ、彼らに言論の自由を与えましょう。それが望まれていたわけですから」

懇談は約45分間。現時点では話せないとした内容も多く、課題が山積している様子がうかがえた。

金平キャスター
「もうピリピリしていて、なぜかというと状況が安定していないからということで、中も雑然としていて、軍だらけです。ものすごく警戒が厳しかった」

入閣した2人の大学生は どう受け止めているのか。話を聞くことができた。

スポーツ省 トップに就任 アシフ・マームドさん(25)
「バングラデシュは経済状況が悪く、失業率も厳しい状況が続いてきました。これらの分野ではユヌス博士は世界的に有名で、政策立案に関わるには理想的な人物です。デモが成功したのは、市民と学生が力を合わせたからです」

情報・通信省 トップに就任 ナヒド・イスラムさん(26)
「初仕事として今日は調査委員会を作りました。24時間以内にデモ中になぜインターネットが遮断されたのか調べて報告します。いまインターネットは生活に欠かせません。自由に使うことは権利であり、人権です。私たちは基本的な権利や人権を絶対忘れない」

暫定政権の顧問には、ほかにも弁護士やNGO関係者など、政治経験のない人たちが数多く含まれている。

貧しい家庭の子供が多く通っているダッカ市内の学校。

授業の合間にビスケットが配られていた。ユヌス氏がかかわる会社が作ったものだ。

子どもたちに問いかけてみた。

Q.バングラデシュをもっと良くするために何をすればいいと思う?
「道路を綺麗にする」
「植物を植える」

この国は、これからどう変わっていくのだろうか。

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