中国の習近平政権は、今年の実質経済成長率の目標を5%前後で持続させるという。手段は、中国共産党主導のモノの増産と投資の水増しで、結果は莫大(ばくだい)な工業品の生産過剰であり、はけ口は海外市場しかない。習政権の対外拡張攻勢が激化する。
通常、経済が成熟するにつれて、家計消費が重要視されるのが西側世界である。景気が悪化すれば、財政、金融政策を通じて家計など民間需要を刺激していくのだが、習政権の場合、財政面で所得の再配分政策は貧弱だし、家計や中小企業を補助することには否定的だ。他方では輸出増強のために企業に対する付加価値税(「増値税」と呼ばれる)を減免する場合もある。
党幹部とその身内は特権を利用して不正蓄財に励む。相続税はないので、摘発されない限り、特権層は資産を存分に膨らませ、香港を通じて海外に金融資産を持ち出す。従って、中国で大問題になっている貧富の格差是正や習氏の言う「共同富裕」社会を実現するなら、まずは相続税導入など資産課税を強化すればよいはずだが、俎上には上らない。既得権者が多い党内の反対が圧倒的に多いからだ。
党が直接支配する中国特有の財政、金融システムには弱点がある。中国人民銀行は流入する外貨に応じて人民元資金を発行するが、国内からの資本逃避や外国企業や機関投資家による対中投資はジリ貧状態である。金利を下げると元安が加速し、通貨危機に転化しかねない。
人民銀行が量的緩和を出来ない以上、中央政府が国債の増発に踏み切るわけにはいかない。買い手がつかない恐れがあるからだ。勢い財政出動は小規模であり、金融緩和も小出しで済ますしかない。地方政府の主力財源である土地利用収入は激減したままだ。
結局、習政権は内需テコ入れよりも、対外膨張策に血道を挙げるしかない。そこで目立つのは習氏自身が執念を燃やしてきた拡大経済圏構想「一帯一路」へのテコ入れである。
グラフは、中国が受注する海外のインフラ建設プロジェクトでの新規契約について、一帯一路沿線とそれ以外の地域に分けている。一帯一路での契約は2020年以降低調が続いていたが、23年の一帯一路向け新規受注は前年比で75%増と急上昇、対外新規契約のうち86%を占めた。対外貿易も一帯一路向けのシェアを輸出で44%、輸入で48%とし、前年の各33%から大きく拡大させた。
一帯一路建設工事は中国企業が受注し、中国の国有銀行が融資し、建設労働者の大半は中国人のケースが多い。いわば、人民元建て輸出同然の対外ビジネスだが、相手国には金利の高いドル建て債務を押し付け、返済できないとなると、中国が建設した港湾などのインフレ施設の占有権を取得し、軍事面でも活用する。
西側世界はそれを「債務の罠(わな)」と呼んで批判してきたが、習政権は「経済協力」だと言い張り突っぱねてきた。
(産経新聞特別記者 田村秀男)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。