米税関・国境警備局(CBP)は16日、南部のメキシコとの国境で7月に拘束された不法越境者が10万4116人だったと明らかにした。バイデン政権(民主党)発足当初の2021年2月以来の低水準。11月の大統領選を巡って共和党のトランプ前大統領から「国境管理の混乱」を批判されているハリス副大統領にとっては好材料となった。
米国では物価高(インフレ)や犯罪件数の統計数値も改善している。ただ、有権者にはこうした問題を巡って過去3年半に蓄積した悪印象が強く残っており、ハリス氏が数値を根拠に有権者を納得させられるかが選挙戦のカギになる。
CBPによると、7月の南部国境での拘束者数は、前年同月と比べて約43%減った。前年より減少するのは5カ月連続。メキシコが米国の要請も踏まえ、不法に自国を通過する移民希望者の取り締まりを強化したのに加え、バイデン政権が6月に不法越境者の亡命申請を事実上禁止したことで減少傾向が強まった。
ホワイトハウスは16日の声明で「政府が断固とした措置をとったことで(不法)越境して拘束される人は著しく減った」と成果を強調。一方で、国境警備隊の人員増加を盛り込んだ対策に共和党が反対していることを批判した。共和党は、大統領選まで不法移民の問題を長引かせて批判材料に利用したいトランプ氏の思惑もあり、対策強化に反対した経緯がある。
7月はインフレの目安となる消費者物価指数(CPI)の伸び率も、前年同月比2・9%増まで落ち、3年4カ月ぶりに3%を下回った。また、シンクタンク「刑事司法評議会」によると、主要都市で今年1~6月に起きた殺人、強盗、傷害事件は21年以降で最も少ない水準だった。
大統領選では、トランプ陣営が不法移民の増加やインフレ、都市の治安悪化を批判してきた。世論調査でもこうした問題への対処では、トランプ氏の方が有権者の信頼度が高いことが示されている。民主党はバイデン大統領からハリス氏に候補が差し替わったが、共和党は「副大統領としての責任がある」と批判を続けており、9月の討論会でもトランプ氏が追及することが予想される。
特にハリス氏は不法移民を抑制するために中南米諸国との折衝役を任された経緯があり、従来は国境問題が鬼門になると目されていた。こうした中、メキシコが対策強化に乗り出し、不法移民が抑制されつつある状況は、ハリス氏に反論する論拠を与えることになる。【ワシントン秋山信一】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。