米連邦議会の上院(建物右側)と下院(左側)=米ワシントンで2024年2月14日、秋山信一撮影

 米連邦下院は20日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対して総額608億ドル(約9兆4000億円)を支援する緊急予算案を賛成多数で可決した。予算成立には上院での可決とバイデン大統領の署名が必要だが、最大の障壁だった下院を通過した。近く成立する見通しで、2023年末に予算が底を突いた対ウクライナ軍事支援は月内にも本格的に再開される。

 賛成311、反対112だった。下院で多数派の共和党は、保守強硬派が「国境対策など国内問題を優先すべきだ」と訴えたこともあり、反対(112票)が賛成(101票)を上回った。民主党は投票した210人全員が賛成した。イスラエルへの軍事支援やパレスチナ自治区ガザ地区への人道支援に264億ドル、台湾への軍事支援などに81億ドルを盛り込んだ緊急予算案もそれぞれ可決され、総額は953億ドルになった。

 バイデン氏(民主党)は声明で「米国の指導力について世界に明確なメッセージを送った」と歓迎。ウクライナのゼレンスキー大統領はX(ツイッター)で「米国が守ろうとする限り、民主主義と自由は負けることはない」と述べた。

緊急予算案の可決後に記者団の取材に応じるジョンソン下院議長=米ワシントンで2024年4月20日、AP

 バイデン政権は23年10月にウクライナ支援を含めた総額1060億ドルの緊急予算案を議会に要求した。ジョンソン下院議長(共和党)は当初、保守強硬派の意向を受けて国境管理の強化策を予算に盛り込む案を模索した。しかし、民主党との妥協を嫌うトランプ前大統領の横やりもあり、調整が難航。予算案の審議も先送りになっていた。

 ただ、ロシアの攻勢が強まる中、国内外から早期のウクライナ支援再開を求める圧力が強まった。イスラエルが今月、イランの攻撃を受けたことも審議を促す一因となった。ジョンソン氏は譲歩を拒む保守強硬派から議長解任をちらつかされたが、最終的に「解任リスク」を承知で国境対策を切り離した予算案の採決に踏み切った。

 米シンクタンク「外交問題評議会」によると、米国は22年1月以降、総額約743億ドルのウクライナ支援を表明している。ウクライナ侵攻ヘの対応は11月の大統領選の争点の一つだが、今回の緊急予算が成立すれば大統領選後も当面は支援継続が可能になる。「支援を無償にすべきでない」とするトランプ氏の意向も踏まえ、財政支援の約95億ドル分は貸し付けになったが、大統領選後に大統領の判断で返済を猶予できる規定が盛り込まれた。

 中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国IT大手に対し米国内での事業売却を求める法案や、凍結したロシア資産のウクライナ支援への活用を盛り込んだ法案も可決された。【ワシントン秋山信一】

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