世界では今、インプットされたデータから文章や画像などを自動で作り出す「生成AI」の技術が急速に進化しています。こうした中、中国では「生成AI」を使って亡くなった人を「復活」させるビジネスが登場し、論争を呼んでいます。
亡くなった子どもがAIで「復活」
「パパ、ママ、会いに来たよ。とっても会いたかったよ。元気なの?」
両親に話しかける子ども。実は本物ではなく、インプットしたデータから文章や画像などを自動で作り出す、「生成AI」の技術を使って作られた動画です。生前の写真や音声を元にAIが、まるで本人がしゃべっているかのような動画を作りだします。AIが学習することで、本人そっくりの口調で質問に答えたり、会話をすることもできます。中国では今、AIを使って「死者を復活させる」ビジネスが登場し、論争となっています。
亡くなった叔父と毎日会話をし、心の安寧を取り戻した祖母
サービスを利用した人に聞いてみました。
「叔父を突然の事故で亡くしてしまった祖母はそのショックに耐えられませんでした。なので、叔父を復活させて祖母と会話ができるようにしたのです」
35歳の男性は祖母のため、叔父を復活させました。祖母は毎日のようにAIで復活した「叔父」に話しかけることで叔父を失った現実を忘れ、心の安寧を取り戻したそうです。
男性は、「祖母は毎日叔父とおしゃべりすることで、悲しみを克服でできました。私は最もいい選択をしたと思います。顧客のニーズを満足させてくれるよいサービスです」と語りました。
復活した父を見て涙を流した友人・・・「私たちは人助けをしている」
去年、AIで死者を復活させるビジネスを始めた張沢偉さん(33)。きっかけは友達から「事故で亡くなったお父さんを復活させてほしい」と依頼されたことでした。
張沢偉さん「生成AIで復活した父を見た友達はとても感情的になり、涙を流しました。それを見て、自分たちのやっていることは人助けになるとわかったんです」
これまでおよそ1000人の「死者を復活」させてきた張さん。「愛する人を失った人たちがAIによって慰めを得る。精神的な癒しや安らぎを得る。これほど幸せなことはありません。お客様から感謝の言葉をもらうことで、自分たちがやっていることは正しい、と感じています」と言います。
事故で亡くなった子どもにもう一度会いたい。古い写真からおじいさんを復活させてほしい。そんな願いが張さんのもとには日々寄せられるといいます。
張さんによると、元になるデータにもよりますが、95%の精度で復元が可能だとのこと。費用は4000元(約8万円)から。1週間ほどで完成します。ここで一つ疑問が浮かびました。
「顔や声は再現できても、記憶の再現は可能なのだろうか?」
人は、愛する人と多くの思い出を共有して生きています。思い出を語り合うことで、共に過ごした時間を再確認し、愛情や友情を深めます。人と人との関係は記憶とともにあるともいえるでしょう。これについて張さんは「時間はかかるが、会話を続けることでAIが知識を蓄えていき、考え方の癖などを学び、限りなく本人に近づく日がくるのではないか」と話します。
有名人を勝手に「復活」・・・肖像権侵害や倫理上の問題も
技術の進化によって実現した驚きのサービス。一方で問題も発生しています。
「中国のファンのみなさん こんにちは。コービー・ブライアントです」
2020年に事故で亡くなったアメリカのプロバスケットボール選手、コービー・ブライアントさん。なぜか流ちょうな中国語をしゃべっています。このように亡くなった有名人を生成AIで勝手に復活させてしまうケースが相次いでいるのです。中国国内でも、肖像権の侵害にあたるのではという指摘や、詐欺などの犯罪に利用されるのではという懸念の声が上がっています。張さんも、犯罪に利用されないよう誓約書を作ったり、場合によっては警察に通報する、肖像権の侵害にならないよう本人や家族の同意を必ずとるなどの対策をとっていると強調しました。
「AIによって永遠に死なない世界」を実現する
張さんに将来の夢を聞いてみました。
「私の夢は、普通の人がデジタルの力で『永遠に死なない』ことを実現することです」
人は肉体的に一度死ぬ。しかし本当に死を迎えるのは、その人のことを覚えている最後のひとりがこの世を去ったとき。つまり、デジタルという形でこの世に残ることができれば、人は永遠に生きられるのではないか、というのです。
「以前は皇帝のような一部の権力者だけが、巨大な墓を作ったり、歴史書に名を刻むことで、永遠に自身の痕跡をこの世に残すことができました。ある種の「不老不死」です。しかしデジタル技術によって普通の人もまた、永遠に自身の痕跡をこの世に残すことができるようになりました。私の夢は普通の人々が、「デジタルで不死」を実現できるようにすることです。それによって権力者と普通の人たちが同じように「不老不死」を手に入れることになると思います」
急速に進むAI技術がもたらすのは心の救済か、それとも死者への冒涜(ぼうとく)か。人は永遠に生きることは可能なのか?中国で始まったビジネスは、重い問いを投げかけています。
JNN北京支局長 立山芽以子
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