7月13日(日本時間同14日)にトランプ前大統領(78)が東部ペンシルベニア州バトラーの選挙集会で演説中に銃撃されてから1カ月となる。実行犯で現場で射殺されたトーマス・クルックス容疑者(20)は、事前に会場を下見するなど計画的な犯行だったとの見方が強まっている。だが、動機はいまだ判然としない。
発砲5秒後に射殺
米主要メディアが公開した現場警察官のボディーカメラなどの映像には、事件発生時の緊迫した様子が記録されていた。
7月13日午後6時10分。地元警察官が同僚の助けを借りてある倉庫の屋根によじ登ると不審な人物に気付いた。慌てて車の方に戻ったが、約40秒後、銃声が鳴り響いた。「頭を下げろ! 彼はそこにいるぞ!」。警察官は慌てて同僚らに警告した。
当日、地元警察は射撃手らが使う距離計を使用しているクルックス容疑者の姿を確認し、大統領警護隊(シークレットサービス)も不審人物として警戒していたが、一時見失っていた。
クルックス容疑者は、演説台から約120~130メートル離れた会場外のこの倉庫の屋上から半自動小銃AR15でトランプ氏を狙撃したとみられている。
発砲回数は8回だった。トランプ氏は右耳を負傷し、参加者ら3人が死傷した。クルックス容疑者はその場で死亡。大統領警護隊の狙撃手が銃声を聞いてからクルックス容疑者がいる場所を特定し、わずか5秒ほどで反撃した。
事前に入念に準備か
クルックス容疑者は会場を事前に複数回下見し、トランプ氏の演説前に会場上空にカメラ付きドローンを飛ばしていたことが分かっている。事件後には運転していた車と自宅から三つの爆発物も見つかった。捜査を指揮する米連邦捜査局(FBI)はトランプ氏に対する暗殺未遂に加え、広範なテロ攻撃の可能性も視野に捜査している。
さらに、米CNNなどによると、クルックス容疑者は昨年8月以降、ペンシルベニア州の射撃場を計43回訪れ、大半をライフル射撃に充てていた。最後に訪れたのは事件前日だった。
事件では連邦議会などから当日の警備態勢の不備を指摘する声も上がった。警護隊のチートル長官は引責辞任。後任のロウ長官代行は2日、チートル氏と同じく「警備隊の失敗」を認めた。
「非常に知的」な容疑者像
ペンシルベニア州の有権者登録によると、クルックス容疑者は「共和党員」として登録する一方、過去に民主党系の団体に献金していた。動機の解明に向けて、FBIは7月末までにクルックス容疑者の両親を含む450人以上を聴取。米ABCニュースによると、8月1日にはトランプ氏からも話を聞いた。
捜査当局はトランプ氏に対し、携帯電話の解析からクルックス容疑者が事件前にトランプ氏を含む著名人の画像を検索していたなどと伝えた一方、動機はまだ正確に分からないと説明した。
また、クルックス容疑者が「SAT」と呼ばれる大学進学適性試験で高得点を記録していたことにも言及。米国の歴代大統領も初代のジョージ・ワシントンから全て言うことができるなど「非常に知的な人物」だったとの分析も伝えた。
今後の警備に課題
米大統領選では8月19~22日、中西部イリノイ州シカゴで民主党全国大会が開かれる。大統領選から撤退したバイデン大統領(81)の後任として立候補したハリス副大統領(59)が指名受諾演説に臨む予定だ。党大会には5万人超の参加が見込まれている。
CNNによると、FBIや国土安全保障省、イリノイ州警察などは党大会に向けて作成した脅威評価で「(トランプ氏の)暗殺未遂に対する暴力行為をあおる言説がオンライン上で流れていることを踏まえると、暴力の継続や報復の可能性が懸念される」としており、警戒を強めている。【ニューヨーク中村聡也】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。