1970年代、冷戦期の米ソが核軍備を競い合った『第1の核時代』
1989年冷戦終結後、核拡散が始まった『第2の核時代』
そして今、世界は『第3の核時代』に突入したという。
果たしてそれはどんな時代なのだろうか?
「西洋の知的及び物理的な支配の時代が終わりつつある」
核の時代を語るとき、常にアメリカとロシア(旧ソ連)を中心に語ってきた。
だが『第3の核時代』はもっと複雑で混沌としているという。
国際政治を研究するイギリスの専門家に聞いた。
レスター大学 アンドリュー・フッター教授
「第3の核時代はより多くの核兵器保有国、より多くの緊張の火種が存在している。米・中・ロ・インド4つの極が核武装している多極化が出現している。アメリカは依然として最も強力な国だが、その差は縮まりつつある。それが世界に様々な緊張や圧力を生み出している。中国の核兵器増強への懸念が高まり、インドも重要な核外交のアクターとして成長している」
この核保有国の増加と成長は、アメリカが多くの挑戦を受ける時代が来たことを意味するとフッター教授は言う。
レスター大学 アンドリュー・フッター教授
「アメリカが西側の規範に基づく国際秩序を広めたり、それを他者に押し付けるのは困難になる。今後は多くの中規模国家や非同盟国が様々なタイプの関係を選び、バランスを取る世界になるだろう。様々な国が主に経済的な関係において中国やロシアと手を結んでいる。核エネルギーの開発に関心を持つ国々はロシアの『ロスアトム』(国営原子力企業)や中国の企業と取り引きしている…(中略)それはグローバルな核分野における西洋の知的及び物理的な支配の時代が終わりつつあることを意味している」
「『第3の核時代』というのは欧米の見方」
核を保有する国が増え、それぞれが様々な主張をする時代をどうまとめるのかを世界中の研究者が考え中だというのは核軍備管理を中心に安全保障を研究する戸崎洋史准教授だ。
広島大学平和研究センター 戸崎洋史 准教授
「アメリカ・ロシア・中国の関係、そこに地域レベルの三角形がある。(東アジアでは)北朝鮮が絡む。南アジアではパキスタン・インド・中国。ヨーロッパではロシア・イギリス・フランス。様々なところで三角形ができて、どこを抑えればいいのか…。こちらを抑えればまたどこかに火種が…。これをどのようにマネージすればいいのか…。冷戦の時はアメリカとソ連でバーンと抑えればよかった…」
とても解ける方程式ではない。混沌とする『第3の核時代』。
世界の核拡散の現状を列挙しておこう。
ロシア…5580発
アメリカ…5044発
中国…500発
フランス…290発
イギリス…225発
インド…172発
パキスタン…170発
イスラエル…90発
数の上ではインドはイギリス・フランスよりも少ないがフッター教授が第4極として挙げているのは何故か?
笹川平和財団 小原凡司 上席フェロー
「やはりインドは経済力を含む国力というものを考えると、今後核兵器を増強する余地がまだまだあるということです。(中略)ただ『第3の核時代』というのは欧米の見方かと…。
安定していたものが変わると思うから『第3の…』なんで、中国なんかは一貫して核の増強を目指してきた。1960年に開発をやるんだと決めてから、その目標を変えたことはない」
核所有のアクターが世界で増えていると言っても中国だけが抜きんでて増大しているのが現実だ。
「人類は愚かなんだけど、愚かなことするのと同じくらいのエネルギーで多少マシなこともする」
2021年、アメリカが公開した衛星写真。中国・新疆ウイグル自治区に巨大な物体がいくつもある。
環境シェルターと呼ばれる地面の構造物を隠すテントだとされる。通常の衛星写真ではそれ以上はわからない。しかし、日本が開発した『合成開口レーダー』で撮影すると…。これは、雲や遮蔽物に遮られることなく内部の様子を捉えることができる。するとテントの中に丸い円形のものが見えた。
これがミサイルの発射口だろうと小原凡司氏は言う。
笹川平和財団 小原凡司 上席フェロー
「土であれば周辺と同じく黒く映る。白い部分はレーダーが強く反射している。金属であったり非常に硬いコンクリート…」
つまり、衛星から見えた巨大なテントは長距離ミサイルの発射場所である可能性がある。そして、今中国にはこうした場所が急増している。それによって懸念されるのは核軍備を増強した中国が核ドクトリン(核戦略)を変更するのではないかということだ。
従来の中国の核ドクトリンとは、即ち
「先制不使用」・・・相手より先に使用しない
「最低限レベル維持」・・・国家の安全に必要な最低限の戦力
「非核兵器国への不使用」・・・核を持たない国には使用も威嚇も行わない
小泉准教授が世界の研究者と話したところ「核ドクトリンは変わらないだろう」というのが大方の見方のようだ。だが戸崎准教授は言う…。
広島大学平和研究センター 戸崎洋史 准教授
「そもそも中国の『先行不使用』というのが信用できるのかというところからあると思う…」
各国の核の保有数は前出の通りだが、実戦配備となるとアメリカ・1419発。ロシア・1549発だ。中国は2035年までに1500発の核を持つと計画している。
『第3の核時代』不安は募るばかりだ。だが、小泉准教授は、こうも言う…。
東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 准教授
「すぐに(核が)なくなるとか、すぐに人類が核の危険かあら脱するってことはないんですけど…、やれることはある。実際に冷戦時代、あれだけ困難な状況の中でも87年に中距離核を全廃したし、一時1万発を超えてた核弾頭の数を実戦配備分としては今1500発まで減らしてるわけです。人類は愚かなんだけど、愚かなことするのと同じくらいのエネルギーで多少マシなこともする…」
どうか、その“多少マシなこと”を人類に期待するほかない…。
(BS-TBS『報道1930』8月6日放送より)
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