イラン中部のイスファハン上空で19日、爆発音が響きました。イスラエルによる無人機攻撃があったと報じられています。先日、イランから初の直接攻撃を受けたイスラエルが“報復”に出た可能性がありますが、両国の政府は沈黙しています。
■“報復の連鎖”中東情勢の行方は
今月1日、シリアにあるイラン大使館が空爆され、イランの革命防衛隊の司令官など13人が死亡しました。イランはこれをイスラエルの犯行と断定し、13〜14日に、イスラエルへの直接攻撃に踏み切りました。約350のドローンやミサイルが発射されたということです。
アメリカのバイデン大統領はイスラエルに対し、反撃の自制を求めてきました。そして19日、イスファハン上空で爆発音が確認されました。これがイスラエルによる報復だと報じられています。
目まぐるしく動く中東情勢の行方はどうなるのか。各地の最新情報を聞いていきます。
■イスラエルの“報復”狙いは
まず、エルサレムにいる伊従啓記者に聞きます。
(Q.攻撃を行ったのがイスラエルだったとすれば、その狙いは何ですか)
伊従啓記者
「第1報から12時間近くが経ちましたが、今回の攻撃についてイスラエル政府から公式発表はありません。肯定も否定もしていない状況です。イスラエルメディアも、主にアメリカからの情報を引用して報じています。エルサレムの状況は、そうしたことが起きたのが信じられないほど平穏です。普段通り車が行きかい、ジョギングする人の姿もあります。市民に求められる行動基準も引き上げられていません。ホテルの従業員も我々に対して『全然心配しなくていいよ』と笑顔で語っていました」
(Q.公式な発表はなく沈黙が続いているのは、あまり事を大きくしたくないからでしょうか)
伊従啓記者
「私は、攻撃の規模がそれほど大きくならなかったことに注目しています。世論調査では、国民の7割近くが『反撃することに賛成』しているなか、ネタニヤフ首相は大規模な反撃に乗り気ではなかったという報道がありました。戦時内閣で、閣僚らが重要拠点への攻撃を進言しても、拒否したといいます。ガザでの衝突を抱えるなか、2正面作戦は避けたいという思惑があるようです。14日のイランからの攻撃は、空軍基地の軽微な被害などにとどまっています。今回、イランへの反撃を“同程度”“限定的”にすることで、国内に向けては『相応の反撃を行った』と説明できる状況になりました。また、アメリカには配慮する姿勢を見せ、ガザ地区ラファへの侵攻にお墨付きを得たいという狙いも取り沙汰されています。イスラエルという国は、10倍返し30倍返しすることもいとわない国です。それが今回かなり限定的な攻撃にとどめたことは『状況をエスカレートさせる意思はない』というメッセージにも見えます」
■“報復の応酬”イラン国内は
イラン・テヘランにいる、朝日新聞社テヘラン支局長の佐藤達弥さんに聞きます。
(Q.イラン国内ではどのように受け止められていますか)
佐藤達弥支局長
「欧米メディアが今回の攻撃を報じてから数十分後、イランの国営メディアも報じました。『被害はなかった』と何回も繰り返したり『普段通りの週末』を強調しています。イスラエルを直接攻撃した際は、作戦名をつけてイスラエルの防空網を突破したことを誇らしげに喧伝していましたが、今回は鎮静化に努めている印象です」
(Q.報復の連鎖が懸念されますが、イランは報復の動きを見せていませんか)
佐藤達弥支局長
「現時点では、政府高官がイスラエルを批判するような報道は見られません。そのため、イランがただちに大規模な報復するとは言い切れません。イスラエルとイランの敵対関係はずっと続いてきて、今後も続いていきます。イランがもう一度、イスラエル本土を攻撃する心理的なハードルが下がっているので、事態によっては緊張が高まることもあり得ると思います」
■“形だけの反撃”か 両国の狙い
中東の国際政治が専門の慶応大学・田中浩一郎教授に聞きます。
(Q.一連の動きは危険なものを感じますが、いかがですか)
田中浩一郎教授
「今回の攻撃については、双方とも落ち着いた格好になっています。振り返ってみれば4月1日以降、約3週間の間に、国対国が戦争を宣言していない状態でミサイルやドローンを飛ばしあう状況が毎週起きています。普通では考えられない状態で、これが常態化してしまうと、将来が恐ろしいです」
(Q.今回の攻撃がイスラエルのものだとすれば、規模が小さいと思いますが、いかがですか)
田中浩一郎教授
「イラン側が出している情報が全てでないにしても、大きな被害を示すものが一切ないので、規模は相当限定されていた。かつ、イランの防空システムも機能していたとみられます」
(Q.イランが沈黙している狙いは何ですか)
田中浩一郎教授
「イランは、今度また攻撃されたら、確実にイスラエルに本土攻撃をすると発表したばかりです。それに従って行動するとエスカレーション、規模の拡大を招いてしまいます。それはイランも望んでいません。それを避けるためには、国内への主戦論や強硬論が巻き起こることを抑制する必要があったと。そのためには『被害がない』『防空システムで迎撃した』と国内にアピールすることが重要な要素になっています」
(Q.これまでの動きで、イスラエルとイランどちらが得をしたと言えますか)
田中浩一郎教授
「最後に撃ち返した形になっているので、現時点ではイスラエルが得をしているように見えます。アメリカの忠告に完全には従わなかったにせよ、イスラエルは2度ほど作戦を延期したと言われていて、今回の攻撃も限定的なものにしたとすれば“アメリカに貸しを作った”とイスラエルは考えていると思います。その貸しを使って、アメリカが慎重な対応を求めてきた、ガザ南部ラファへの侵攻する強硬論に打って出るのではと思います。そのような流れを作ったとも言えるので、現時点ではイスラエルが得るものを得たとも言えます。また、19日はイランの最高指導者ハメネイ氏の誕生日です。誕生日にとんでもない贈り物をしたという意味でも、イスラエル側はほくそ笑んでいるのではないでしょうか」
(Q.ガザはこれまで以上に被害を受ける可能性がありますか)
田中浩一郎教授
「ガザ、パレスチナ人の惨状が一層ひどいものになってしまう。そのような間接的影響が、イスラエルとイランの対峙の結果、生じてしまうかもしれません」
(Q.報復の連鎖は今回で終わりになりそうですか)
田中浩一郎教授
「イラン側が非常に抑制的な報道をしていて、主戦論や強硬論が沸き起こることや、報復をすべきという声を上げさせないように務めています。ですので、イランはこれ以上、撃ち返しをしないと。イスラエル側も、攻撃が小規模過ぎるくらいに小規模だったので気にかかりますが、これでイスラエル国内の強硬論を抑え込むことができれば、約3週間にわたる暴力の応酬はいったん断ち切られます。ただ、両国は敵対したままなので、根本的な問題は解決しません」
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