バングラデシュで4日、ハシナ首相の辞任を求めるデモ隊が治安部隊や与党支持者と衝突し、100人近い死者が出た。AFP通信は5日、学生らの抗議活動が激化した7月以降、300人以上が死亡したと報道。ハシナ氏はデモ隊を「テロリスト」と呼んで鎮圧する構えを見せており、情勢が緊迫化している。
「政府は多数の学生や市民を殺した。最後通告を突きつけるときが来た」。地元メディアによると、学生団体のとりまとめ役は、5日に首都ダッカに集結するように呼びかけた。
4日はダッカなど各地で与党議員の自宅や警察署が襲撃され、警察官13人も死亡した。ハシナ氏は「暴力を振るっているのは学生ではなく、テロリストだ」と非難。全土に無期限の外出禁止令を発令し、5~7日を休日にすると決めた。
発端となったのは、公務員採用を巡る優遇措置だった。バングラは1971年の独立戦争を戦った兵士の家族に公務員採用枠の3割を割り当ててきたが、2018年に市民の抗議を受けて廃止。しかし、高裁は今年6月に復活を認めた。ハシナ氏の父は独立闘争を率いたラーマン初代大統領で、学生らは与党・アワミ連盟の支持者を優遇する措置だと批判。最高裁は7月下旬に優遇枠を大幅に縮小する方針を示し、政府もこれを受け入れて沈静化を図った。
ところが今月4日にデモが再燃。背景にあるのが、ハシナ政権の強権的な姿勢に対する不満だ。政府は7月のデモに際し、軍による鎮圧に乗り出し、1万人以上を拘束。国連児童基金(ユニセフ)によると、少なくとも32人の子供が死亡し、デモを取材していた複数の記者も殺害された。
ダッカ大のサイド・マンズールル・イスラム名誉教授は地元紙プロトム・アロに、当初は「平和的な運動だった」と指摘。しかし、「初めから学生たちは敵とみなされ、武力で抑え込まれたことで事態が悪化した。与党は学生たちの怒りと感情を理解するのに失敗した」と分析した。
かつてアジアの最貧国の一つだったバングラは近年、高い経済成長を続けている。しかし、若者の雇用不足は深刻で、地元メディアによると、就学も就職もしていない「ニート」の割合は4割近くに上る。今年1月の総選挙では最大野党がボイコットしており、政権の強権化も懸念される。
7月のデモを受け、日本など各国が不要不急の渡航を延期するよう呼びかけている。地元記者は取材に「経済発展が止まれば、バングラに将来はない。デモは制御できなくなっており、今後どうなるのか誰にも分からない」と語った。【ニューデリー川上珠実】
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