全米、全世界に衝撃を与えたトランプ前大統領に対する“暗殺未遂事件”から5日。ステージに立った78歳の大統領候補は、1時間半の独演を行った。熱狂に包まれた会場で発せられたメッセージはどのようなものだったのか。トランプ氏の「指名受諾演説」を検証する。(TBSワシントン支局 樫元照幸)

「どんな困難にも屈しない」 “銃撃”振り返る

トランプ氏は穏やかなトーンで演説を始めた。大統領候補者指名への受諾表明をした後、現地7月13日に起きた暗殺未遂事件について語り始めた。あの時、何が起きたのか、どんなことを思ったのか。

トランプ氏が「銃弾がわずかにずれていたらここには私はいなかった」「全能の神のおかげでここに立てているんだ」と話した。聴衆からはスタンディングオベーションが起こる。

最も印象的な写真になった、血を流しながら右手を突き上げたシーンについても言及があった。トランプ氏は当時のことについて「皆に大丈夫だということを伝えたかった」と話し「これまでに聞いたことのないほど大きな歓声が聞こえた」と振り返った。

そして「どんな困難が立ちはだかっても私は決して屈しない」と聴衆にメッセージを発した。暗殺未遂事件を振り返るトランプ氏に対し、涙ながらに拍手を送る聴衆が会場のスクリーンには何度も映し出された。

銃撃現場で亡くなった男性への黙とうが終わると、話は自身の家族や政治へと展開していった。そして、徐々にトランプ氏の話しぶりのトーンが変化していく。

共和党大会初日の15日に会場に現れたトランプ氏は神妙な表情だった。暗殺未遂からまだ日も浅く、衝撃的な事件によるショックの影響が心配されたのだが、演説が進むにつれ、アドリブでの発言が増え、時折ジョークで聴衆を沸かせる場面が出てきた。

キーワードは「団結」 民主党の口撃にも

大統領選を争うライバル・民主党への発言を見ていく。

トランプ氏は「政治的な意見の違いがある人を悪者扱いしてはならない」として、「民主党は司法制度を『武器化』して、政敵に『民主主義の敵』というレッテルを貼ることを、直ちにやめるべきだ」と主張した。

そして、「民主党が我が国を『団結』させたいなら、魔女狩りを止めるべきだ」と訴えた。

ここで注目されるのが「団結」というキーワードだ。

トランプ氏の今回の指名受諾演説は、「国の団結」を訴えるということで注目されていた。

そうした中、トランプ氏は「民主党がやっていることがこの国の『団結』を阻んでいるのだ」というレトリックで「団結」というキーワードを用いた。

そして「4年前にトランプ氏が政権を取っていたときは本当に良かった。今はインフレが本当にひどい、不法移民もひどい。世界は戦争だらけだ」とライバルへの口撃を続けた。

「自動車」政策にも言及 日本企業にも今後影響が?

話が自身の政策に進む。訴えたのは、「アメリカを世界がかつて見たこともないような、偉大な国に導く」「アメリカを再び尊敬されるようにする」ということだ。

そして、「国民への誓い」と前置きして、「インフレを直ちに終わらせる。そしてエネルギーコストを引き下げる」と宣言した。また、外交問題については「ロシアやウクライナとの恐ろしい戦争、ガザ地区での戦争を終わらせる」と明確に言い放った。

トランプ氏は「自動車」についての自身の意見にも言及した。

バイデン政権は自動車の「EV=電気自動車」の普及を加速させる政策をとっているが、トランプ氏は「これを直ちにやめる」と話した。

トランプ氏が大統領になると、日本の自動車メーカーも含め、大きな影響が出てくることになる。今後の討論会などでの発言も、日本企業としては大きく注目する必要があるだろう。

「支持してくれた人もそうでない人も・・・」無党派層への呼びかけ

「無党派」を意識した発言も見られた。

「今夜、これまでに私を支持してくれた人も、そうでない人も。将来この先、私を支持してくれることを願います。この国の将来に大いに期待していただきたい」そう訴える場面もあった。

また、バイデン大統領への直接的な批判も避けていた。普段の演説では、不法移民問題で政権批判をする際に「バイデン移民犯罪だ」などと罵るが、そういう言い方は今回の演説では一切しなかった。無党派層の人もこの演説を聞いているということを意識したのではないか。

「バイデン政権」という言い方をせずに「現政権」という言い方で批判をし、「インフレ」や「不法移民問題」については「現政権が引き起こしたことだ」「自分が大統領に就任したら違うぞ」ということを明確に示していたのが印象的だった。

共和党にとって100点の党大会 対照的な民主党

そもそも、トランプ氏にとって「共和党の団結」というのがこの党大会において非常に大きなテーマだった。

それが、暗殺未遂事件を受けてかなり空気が変わる。

4日間の共和党大会を経て見えた「団結」の達成度というのは、100点以上の結果をもたらしたと言えるだろう。

一方、バイデン大統領と民主党は窮地に陥っている。一部の現地報道によるとバイデン大統領はこの週末にも撤退表明をせざるを得ないのではとも言われている。

トランプ前大統領への支持表明が相次ぎ、「団結」を成し遂げることができた共和党。対照的に大統領が撤退に追い込まれそうな民主党。両党のコントラストが激しい1週間となった。

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