英国のスターマー首相は5日、労働党のアンジェラ・レイナー副党首(44)を新政権の副首相に任命した。16歳で妊娠して学校を中退し、周囲から「見下されてきた」という若き日々から、時を経て英国の「ナンバー2」になったレイナー氏とはどんな人物なのか。
「公営住宅に住んでいるとか、片親だとか、そうした理由で他人を見下す人がいた」
英メディアによると、レイナー氏は1日、ロンドンでの選挙集会で自らの生い立ちを語った。そしてケアワーカーとして働いた自身の体験を踏まえ、介護現場などで働く人に正当な賃金が支払われるよう、「日々戦っていく」と訴えた。
ドッグフードを食べさせられそうにも
本名アンジェラ・ボウエン。1980年3月、英中部ストックポートに生まれた。英紙ガーディアンなどによると、3人きょうだいの2番目で、公営住宅で育った。母は躁(そう)状態と鬱(うつ)状態を繰り返す双極性障害だったが、父がほとんど家に帰らなかったため、10歳から母の世話をしたヤングケアラーだった。母は字が読めず、ドッグフードを牛肉のステーキと思い込んで子供たちに食べさせようとしたという。
荒れた10代を送り、14歳でナイトクラブに通い始め、16歳で妊娠して学校を中退した。
転機は長男を出産した97年だ。この年、労働党のブレア政権が誕生。低所得者層の子育てを支援する教室が地域に誕生し、ここで育児を学ぶことができた。手話を学び、介護職の資格を取り、地元ストックポートでケアワーカーとして働けるようになった。
人生を変えてくれた労働党
自らの人生を変えてくれた労働党に親近感を持ち、労働組合勤務を経て2015年に下院議員に初当選。10年に労組幹部のマーク・レイナー氏と結婚し、20年の離婚後もレイナー姓を名乗る。37歳で「祖母」になり、現在は3人の子と1人の孫がいる。
「私は社会主義者だが、現実主義者でもある」。自らをそう語るレイナー氏は、その現場体験から、社会福祉や教育分野に強い政治家として知られる。足には、労働党のシンボル「赤いバラ」のタトゥーを彫っている。
その強烈な個性もあり、政敵の保守党からはしばしば攻撃対象となる。22年には下院の議場で、当時のジョンソン首相(保守党)の前で足を何度も組み直したことが「首相の気をそらすため」などと保守党側から批判された。これに対しレイナー氏は、「変態的な中傷だ」と激怒し、政界にはミソジニー(女性嫌悪)が根強いと訴えた。この時は保守党の女性議員らもレイナー氏を支持した。
一方で過去には脱税疑惑なども報じられ、「彼女は常に正しいわけではない」(ガーディアン紙)とも評される。
レイナー氏は副首相のほか、住宅・地域社会相も兼務する。【ロンドン篠田航一】
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