【カイロ=佐藤貴生】イランの攻撃を受けたイスラエルが反撃する場合、攻撃対象や方法には多岐にわたる選択肢がある。イスラエルは自制を求める米欧などの反応を見極めつつ、規模や時期を検討している。
核開発施設
欧米メディアはイスラエルが激しい反撃をする場合の事例として、核開発施設への攻撃を挙げる。イランは核開発は「平和利用が目的」だと強調するが、イスラエルのネタニヤフ首相は「全力で核兵器獲得を防ぐ」などと非難してきた。イスラエルは事実上の核保有国で、中東における優位性が崩れかねないとの危機感がある。
イランは2015年、核開発を制限する見返りに欧米などが経済制裁を解除する「核合意」に達したが、トランプ前米政権は18年に一方的に合意を離脱し、制裁を復活させた。
反発したイランは核開発を加速させ、21年に核兵器級に近づく濃縮度60%のウランを製造した。ロイター通信によるとイランは高濃縮ウランの増産を続け、その量は核兵器が製造できる量に達している。
一方で、核施設攻撃はイランの激しい反応を招き、緊張が激化する公算が大きい。欧米などの支援を維持したいイスラエルがどう判断するかにかかっている。
革命防衛隊
イランの最高指導者に直属する「革命防衛隊」は、中東各地の親イラン民兵組織に資金や兵器を供給し、反イスラエル軍事行動の組織化を進めてきた。このため、革命防衛隊の司令部や武器庫がイスラエルの標的になる可能性も指摘される。また、特定の幹部が狙われるとの分析もある。
米外交誌フォーリン・ポリシー(電子版)は、イスラエルへの大規模攻撃を指揮したとされる革命防衛隊の航空部門トップ、ハジザデ司令官は「常に(イスラエルの)標的とみなされている」という米シンクタンク専門家の見方を伝えた。
イスラエルが、革命防衛隊との関係が深いレバノンの民兵組織「ヒズボラ」などの掃討を本格化させる可能性もある。ただ、これだけではイランが敢行した本土への直接攻撃に見合う反撃とはならず、作戦の一部にとどまりそうだ。
サイバー攻撃
イスラエルが殺傷兵器に頼らない形でイランに打撃を与えることを検討している、との見方も有力だ。
イラン中部ナタンズの核施設では20年に火災が発生し、当局者は「サイバー攻撃の可能性がある」と述べた。この施設は10年にも、米国やイスラエルが開発したとされるマルウェア(不正なプログラム)「スタックスネット」で攻撃を受けたといわれる。
また、イランではしばしば要人が暗殺される事件が起きており、イスラエルの関与が疑われてきた。「核開発の父」と称された科学者が首都テヘラン東方で暗殺された20年には、当時のロウハニ大統領がイスラエルへの報復を明言した。要人暗殺はイラン国内に限らず行われる可能性がある。
サイバー攻撃や暗殺は民間人の犠牲を最小限に抑えることができるため、イスラエルが視野に入れているとの指摘が多い。
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