11月のアメリカ大統領選に向けたテレビ討論会が行われた。81歳のバイデン大統領と78歳のトランプ前大統領という史上最高齢の対決となった。
互いに「史上最悪の大統領」テレビ討論会で直接対決
4年ぶりの直接対決となった6月27日のテレビ討論会。冒頭、経済をめぐってバイデン氏が「多くの雇用を創出した」と誇ったのに対し、トランプ氏は「インフレが私たちの国を殺そうとしている」と批判。不法移民などの争点でも議論を戦わせ、互いに「史上最悪の大統領」と批判しあった。
81歳のバイデン氏と78歳のトランプ氏。高齢対決も焦点の一つとなっている。6月14日、78歳を迎えたトランプ氏は3つ年上のバイデン氏を挑発した。「いったい何が起こっているのか何もわかっていない大統領がいる」。
6月のイベントで他の参加者が音楽に合わせて体を動かす中、バイデン氏だけは止まったまま。これを見たトランプ陣営はSNSに「バイデンはなぜ動かないんだ?」と投稿。バイデン氏もSNSで対抗している。
「彼は34の重罪で有罪となり、性的暴行や金融詐欺を行った。有罪評決を受けた犯罪者とあなたの家族のために戦う大統領の対決だ」。バイデン氏は大統領経験者として初めて有罪となったトランプ氏を、犯罪者だと糾弾した。大統領選に向け、過激なネガティブキャンペーンが展開されている。
アメリカ国民はテレビ討論会をどう見たのか。バイデン支持者は「がっかりした。きょうのバイデンは本当にひどかったから、民主党は代わりの候補者を検討せざるを得ない」「ひどかった。国民の大半は両党とも違う候補者ならよかったと考えているのではないか」。
複数のアメリカメディアは「トランプ氏の発言には根拠を欠くものが多かった」とも伝えているが、6月29日時点の支持率はトランプ氏が46.7%、バイデン氏が44.8%と、トランプ氏が一歩リードする形だ。
「高齢対決」現地の評価と今後の展望は
――討論会が終わって、現地の受け止め方は?
TBS ワシントン支局 涌井文晶記者:
バイデン氏が討論会で弱々しい姿を示したことで、候補者としての適性に一挙に不安が広がり、民主党内はパニック状態になっていると各種メディアで伝えられている。CNNが放送直後に行った世論調査では、トランプ氏が勝利したと答えた人が67%、バイデン氏は33%だった。バイデン氏惨敗というこの結果を受けて、テレビのニュースでは一日中民主党内でバイデン氏の交代論が浮上していると取り上げられた。また、夕方になると有力紙のニューヨーク・タイムズが社説を発表し、バイデン氏に撤退するように促した。リベラルな社論で知られるニューヨーク・タイムズは2020年にはバイデン氏を支持したが、27日の討論会を受けてこのままバイデン氏が選挙戦にとどまれば、トランプ氏が勝利する可能性が高まると指摘して、民主党は別の候補者を指名するべきだという。
――バイデン氏はこうした声に対して、どんな反応を示しているのか。
TBS ワシントン支局 涌井文晶記者:
激戦州のノースカロライナ州の選挙集会で演説して「11月の選挙で勝利する」と述べて撤退論の打ち消しを図った。演説の中では「私は若くない、討論も以前のようにうまくはできない」と認める一方で、「私は真実を伝える方法を知っているし、善悪の区別がつく」とトランプ氏との違いを強調した。また、前日の討論会に比べると、声にも張りがあり、せき込んだり、声がかすれたりするという場面も限られていた。ただ一度の選挙集会が力強くあったというだけでは多くの視聴者が見たテレビ討論会でのマイナスの印象を払拭するには不十分だろうとも思われる。
――にわかに浮上してきた候補者の差し替え論。現実的には進む可能性はあるか。
TBS ワシントン支局 涌井文晶記者:
民主党の候補を選ぶ予備選は既に終了しており、バイデン氏が自ら撤退を決断しない限り候補者の差し替えは難しいと見られる。そのため民主党内でバイデン氏で大丈夫かという声は水面下で広がっているようだが、表立ってバイデンおろしを訴える声が大きくなっているという状況ではない。大統領選の有力候補者としてかつて名前が挙がったカリフォルニア州のニューサム知事らも現時点ではバイデン氏を支持し続けるとしている。ただ今後討論会を受けた世論調査の結果などによってはさらに民主党内でバイデン氏の交代論が高まることもあり得る。
81歳vs78歳 高齢者対決決の勝者は!? 物価高・戦争・移民…非難応酬
――今回の討論会。衝撃はどのぐらいか?
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
大統領選の討論会は何十回も見てきたが、最も衝撃が大きい。聴衆の前で政策について発言することに慣れているはずの現職大統領がこれだけいろいろな重要な政策についてきちんとわかりやすい表現で説明できないどころか、聞いてる方は何を言っているのかよくわからないという結末になったことを見たことがない。
――討論会の前、相当特訓したそうだが、結果いろんなキーワードを頭に詰め込んで言わなければと思って混乱しているように見えた。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
それは一つあると思う。同時にバイデン氏は記憶力の問題が指摘されていたが、やはり彼の弁論を見ると、言いたいことが3つある。ナンバー1はこれだと。その後の2番、3番が出てこない。おそらくそのナンバー1を言うので精一杯で、2番、3番についてはもう頭の中が真っ白になってしまい、彼の能力的な限界をまざまざと見せてしまった感じだ。バイデン氏の敗因は高齢問題だが、トランプ氏の勝因は、いかなる政策の問題も、移民の問題に結びつけている。移民がいるからこれだけアメリカの治安・経済は悪くなっていると議論をすり替えている。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
アメリカ世論の大勢はトランプ氏がいうように、壁を作って移民の流入を制限するということなので、乱暴な議論ではあるがそこに執着して発言したところが大きなポイントだ。
――黒人の失業率が高いという話も移民のせい。自分の土俵に引きずり込むような展開だった。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
トランプ氏のもう一つの弱みは「犯罪者」ではないかということ。バイデン氏も指摘したが、彼は実際に有罪の評決を受けたのでそこは否定しない。ただし彼は「であるならば、なぜ私はここに立てているのか」という論法だ。そこで「アメリカ人の中の共和党の支持者の大半、それから支持率を見るとかなりのアメリカ国民は私にもう1回大統領をやってほしいと言っている」と。トランプ氏から言わせれば「アメリカ人は大した犯罪でない部分にいろいろ注目するよりも、これまで行ってきた政策を期待している」という議論の切り返しをしていて、ここもトランプ氏がポイントを上げた点だと思う。
――「犯罪者である」というバイデン氏の攻め方が必ずしも効果を発揮しなかった部分もある。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
トランプ氏は「私は犯罪者かもしれないが、国民は私を支持している」。そこの論法は確かに効果的だ。
――バイデン大統領は、弱いから差し替えた方がいいという声がくすぶってきた。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
ずっとくすぶると思うし、ニューヨーク・タイムズが社説も出しているように、本来であればバイデン氏を支持するようなリベラルな新聞社の記者たちが民主党の中でバイデンおろしの声が出ていることを大きく記事にしているので、この話はずっと続くと思うが、問題は2023年の段階からこの話はあったが、結局誰もバイデン氏に「そろそろやめた方がいいのでは」と話を持っていけなかった。2つ目はバイデン氏に代わるべき候補者である50代の知事やハリス副大統領たちがバイデン氏に対して代わって自分が出るという強い決意を持ってこの選挙戦でアメリカを救うという使命感を見せていないということが大きいので、なかなか差し替えは難しい。
こうした討論会でのパフォーマンスが重要視されるのは、選挙戦が接戦だからだ。
政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によるとトランプ氏の支持率は46.7%。バイデン氏は44.8%と、トランプ氏が優勢となっている。
そして大統領選の勝敗を決める選挙人の投票を見ると、全米で538人いる選挙人の過半数、270人以上を獲得した候補が当選となるが、現在の情勢はバイデン氏が202、トランプ氏が219となっている。
そして注目が、7つの激戦州。ウィスコンシン州の同率を除いて6州ともトランプ氏が優勢となっている。
ただ、7州のうち北部の3州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州をバイデン氏が取った場合、過半数の270票を獲得しバイデン氏が勝利する可能性もある。激戦州7州のうち、前回の選挙は6州でバイデン氏が勝ったが、今回は支持率でかなり劣勢になっており、仮に南部の4州は落として残る3州、ウィスコンシン州が同率でミシガン州も、ペンシルベニア州も小差ということでこの3州さえとればギリギリ勝てるかもしれない。だからバイデン陣営にとってはこの3州は絶対に落とせない。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
絶対死守しなくてはいけない。いわゆる「ブルーウォール」という民主党の色である「青い壁」は共和党(レッド=赤)が攻め込んでもそこで跳ね返すということだ。確かに今紹介された数字を見ても僅差あるいは同率なのでバイデン氏としては可能性がある。特に私が注目したいのはペンシルベニア州。バイデン氏が生まれたところだから、本来バイデン氏の州だが、トランプ氏に負けている。今回の選挙はペンシルべニア州の郊外をどちらが取るかがカギなので、郊外の住民たちがトランプ氏の破壊力には期待したいが、人格的に眉をひそめている人たちが住んでいるので、これをバイデン氏がすくい取れるかということがポイントだ。
――アメリカの選挙の場合、民主党支持者は民主党支持で、共和党支持者は共和党支持だが、これからどういう人をターゲットに何をやっていく選挙になっていくのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
無党派層、地区としては郊外に住んでいる人々をどうやって落としていくかということだ。ただトランプ氏、討論会はうまくやったが、1つ1つの発言が相当おかしいことが多い。例えば選挙結果を受け入れるのかというときになかなか受け入れると言わずに、最後に正当であれば受け入れると。ということは正当ではないとトランプ氏が判断すれば、また受け入れられない、暴力的な行動に出るということは問題。そして移民に対しても非常に侮辱的なことを言っているので、いくつかのポイントはあってバイデン氏としても用意していると思う。ただ何といっても一番重要なのは、とにかくエネルギーを持ってガッツがあるんだと、私は皆さんの生活を守るんだというメッセージをどれだけ強く出していけるかということがバイデン氏の今後のカギになる。
――トランプ氏の方は、彼の理屈はもう出尽くした感があるか?
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
彼が今回の討論会で臨んだやり方は彼としては100%の戦術だと思う。そこで乗り切ったので、これからはバイデン氏がいかに巻き返せるかということになってくる。
――その巻き返しの鍵となるのは、1つは「トランプ氏は犯罪人だと、身勝手な男だ」と徹底的に言う。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
民主党の選挙をやっている人たちは、とにかくバイデン氏が元気いっぱいで、エネルギッシュに、場合によっては汗もかいて、動きも激しくて、ダンスも一緒に踊ると、そういうバイデン氏を見せない限りは、やはりアメリカ国民は何といってもエネルギーのある人を大統領に選ぶので、今の状況では圧倒的にトランプ氏が有利であるということは間違いない。
――今回の選挙の意味を考えると、トランプ氏は過去3年間、3回大統領選挙に出ているが、その中で1回目の選挙は、忘れられた人たち、置き去りにされた人たちを救うという、トランプ旋風の選挙だった。前回はトランプ政権1期目の審判だった。今回は何が問われている選挙なのか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
アメリカの一般の国民が感じている閉塞感、あるいは停滞感。アメリカ経済は今いいが、一般国民からするとインフレ率はすごいことになっていて、なかなか経済の好転の実感は得られていない。それから移民の流入により社会秩序破壊の恐怖感などいろんなものを感じるが、そういうものを打破して改革する、または解決してほしいという願いが強い選挙だと思う。
その時にこの2人を比べた場合に、バイデン氏が持っている、人格的には安定しているし、信用できる人だが、エネルギーがない人よりは、人格的には破綻しているかもしれないが我々のためにいろんな問題を解決してくれると宣言しているトランプ氏、それからトランプ氏の場合は裁判とかいろんなことがあるが、もう1回カムバックして頑張ると言っているエネルギー。ここにアメリカ人はヒーローというか英雄的なものを感じている。そこで自分たちの生活も、もう1度カムバックしたいんだという気持ちを託していると思う。要するに安定か、改革かとなるとアメリカ人は改革を選ぶ。あるいは破壊といってもいいがそちらの方になびくような気がする。
――前回、大統領選挙の結果を受け入れずに、議会の占拠事件を助長したような人をもう1回大統領にするのは「自由と民主主義の国」のアメリカ国民として、本当にそれでいいと思っているのだろうか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
我々はまさにそう思っているし、トランプ氏の最大の弱点であるし、バイデン氏はそこを突いてくると思うが、中央政府に対する不満や、あるいは既成の官僚組織に対する不満、あるいは大企業で膨大な報酬を受けているCEOたちへの不満というのは、ふつふつとマグマのように盛り上がっている。そういう中で多少は暴力的なことがあっても、破壊的なことがあっても、ワシントンあるいはニューヨークの政治経済の構造を崩してくれるような革命的なことを期待しているというのがトランプ派の人々の本音だと思う。
(BS-TBS『Bizスクエア』 6月29日放送より)
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