シリーズ「現場から、」は、間もなく投票が始まるイラン大統領選挙です。ヘリ墜落事故によるライシ大統領の急死を受けて行われる今回の選挙。国民は現在の保守強硬路線の継続を望むのか、それとも改革派を選ぶのでしょうか。

イランの首都テヘランで朝から市民と言葉を交わすのは、アフマディネジャド元大統領。2013年までの2期、8年間イランを率いました。退任後、ほぼ毎日こうした対話を続け、貧困層を中心に熱狂的な支持者が多いといいます。

在任中は国際社会の批判のなかで核開発を進めるなど、強硬路線でした。ただ、現体制には批判的とみられ、今回の大統領選の有力候補の1人と目されていたものの、事前の審査で出馬が認められませんでした。

テヘラン市民
「イランの多くの人は、この結果に失望しました。不当と思わざるを得ません」

この事前審査を行うのが「護憲評議会」。最高指導者ハメネイ師の影響下にあるとされます。

「反米」「中国・ロシアとの協力重視」という現体制に近い保守強硬派の立候補は複数、認められましたが、穏健派や改革派の有力者は次々失格となったため、市民の不満が高まっているのです。

こうした声に「護憲評議会」は。

護憲評議会 報道官
「立候補者がどういった政治的な立場をとっているのかは勘案しない。いかなる政治グループとのつながりもありません」

護憲評議会の広報官がこうしたインタビューに応じるのは異例です。審査に最高指導者ハメネイ氏の意向が反映されているのでは、との指摘には。

護憲評議会 報道官
「完全に独立した機関で、特定の誰かなどといった外からの圧力に影響されることはありません」

こうしたなか、ある候補の躍進が注目されています。唯一の改革派、ペゼシュキアン元保健相です。

改革派 ペゼシュキアン候補
「(欧米からの)経済制裁を終わらさなければならない」

国際協調を訴え、欧米などとの対話に前向きな姿勢を強調。知名度の低さが指摘されていたものの、選挙戦が進むにつれ、現体制に不満を抱く市民の支持を取り込んできました。まだ選挙権のない若者にも浸透しつつあるようです。

市民(17)
「僕らの国には大きな変化が必要です。社会や政治の運営に変化があるべきです」
市民(16)
「(ペゼシュキアン候補は)真実を語ってくれている。権力者でなく、市民の声を代弁してくれています」

過半数を得た候補がいなければ、来月、上位2人による決選投票が行われます。

首都テヘランにいる中東担当・増尾記者が最新の情勢についてお伝えします。

今回のイラン大統領選挙では、反米の保守強硬路線を支持する保守派の候補が有力視されてきましたが、選挙戦が進むにつれて、改革派候補、ペゼシュキアン氏が支持を伸ばし、世論調査でトップとなる結果も出ています。

保守票が割れないようにと保守派候補の辞退が続いた結果、今は事実上、三つどもえの戦いとなっています。

イランでは外交や核開発といった重要政策の判断は最高指導者ハメネイ師が担っていて、その影響を受ける保守派候補が勝てば、これまでの「反米」「親中国・ロシア」路線は継承される見通しです。

一方、改革派候補の勝利となれば、欧米による経済制裁に苦しむ国民の民意が示されたともいえます。

改革派候補がどれだけ票を伸ばし、そして今後のイランの外交政策にどのような変化が出てくるのか、注目されます。

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