英国在住で元捕虜と交流を続けてきたホームズ恵子さん=オンライン取材の画面より

 第二次世界大戦で、英国は日本と敵国になり、戦後は反日感情が残った。日本による捕虜の強制労働で多くの犠牲者が出たことも影響している。こうした中、皇室と英王室の交流は関係改善にどのような役割を果たしたのだろうか。元捕虜と交流してきた人は「心の癒やしにつながっている」と話し、22日からの天皇、皇后両陛下の訪英にも期待を寄せる。

 日本は戦時中、1941年のマレー沖海戦で戦艦プリンス・オブ・ウェールズを撃沈するなど英国と交戦。兵士を捕虜とし、東南アジア各地の収容所で使役した。タイとビルマ(現ミャンマー)をつなぐ泰緬(たいめん)鉄道の建設で酷使し、多くの犠牲者を出した。日本での鉱山労働に送られた捕虜もいた。

20年ほど前、英国人の元捕虜が日本家庭にホームステイした際の記念写真。中央の男性が元捕虜。左隣の女性は男性の妻=ホームズ恵子さん提供

終戦から8年、上皇さまが訪英

 終戦から8年後の53年、皇太子だった当時19歳の上皇さまは昭和天皇の名代として訪英し、エリザベス女王の戴冠式に出席された。日本に対する英国民の見方は厳しく、訪英反対を主張した現地紙もあった。「当時の英国民の空気はかなり微妙なものがありました」。上皇さまは後にこう振り返った。

2000年ごろ、ホームズ恵子さんがロンドンの自宅で開いた昼食会。「パラダイスランチ」と名付け、英国人の元捕虜や家族を招いた=ホームズ恵子さん提供

 71年には昭和天皇が国際親善のために訪問したが、記念植樹をした日光産のスギは翌日に根元から切り倒され、塩素酸ナトリウムがかけられた。

 「捕虜として現地で亡くなったり、帰ってきても人が変わってしまったり、家族が身も心もバラバラにされたケースがありました。残された家族は日本を徹底して恨むように子孫にも教えたのです」

エリザベス女王主催の晩さん会を前に、写真撮影に応じる(左から)エディンバラ公、エリザベス皇太后、天皇、皇后両陛下(現・上皇ご夫妻)、エリザベス女王=ロンドンのバッキンガム宮殿で1998年5月26日(代表撮影)

 英国在住で元捕虜たちと交流を重ね、日本に招くなど「和解の旅」を92年から続けてきたホームズ恵子さん(76)は英国内の反日感情の背景をこう解説する。日本の残虐さを描く本や映画も多くあるのだという。

 エリザベス女王は国民に残る強い反日の思いを承知の上で、昭和天皇も上皇さまも温かく迎え入れてきた。71年の昭和天皇訪問時の晩さん会では「両国民が常に平和で友好的であったと偽りは言えない。だが、この経験ゆえに、私どもは二度と同じことが起きてはならないという決意を固くする」と述べた。

 平成になり、上皇さまは98年5月に天皇として訪英した。戦後50年を過ぎた当時も、上皇ご夫妻を乗せてバッキンガム宮殿に向かう馬車列の通り道、歓迎する人々に交じって背を向ける元捕虜たちがいた。日の丸の旗を燃やして抗議の意を示した人もいた。

 ホームズさんはこの日、バッキンガム宮殿で開かれた晩さん会に招かれた。和解の旅の他にも、元捕虜やその家族を自宅に招いて昼食会を開くなど、草の根の活動を知る女王の招待だった。招待者たちを出迎えていた上皇さまからは感謝の言葉があった。

 晩さん会のあいさつで、上皇さまは戦争の歴史に言及した。「戦争により人々の受けた傷を思う時、深い心の痛みを覚えます」と述べ、「二度とこのような歴史の刻まれぬことを衷心より願うとともに、過去の苦しみを経ながらも、その後計り知れぬ努力をもって、両国の未来の友好のために力を尽くしてこられた人々に、深い敬意と感謝の念を表したい」と続けた。

 この言葉は元捕虜たちにどう響いたのか。ホームズさんによると、好意的に言葉を受け取った人がいる一方で、「結局は謝っていない」という批判もあった。

 だが、ホームズさんは上皇さまの姿が多くの元捕虜やその家族の胸に刻まれたと感じている。憤っていた元捕虜の中に、時を経て来日し、日本の友人ができた人もいるからだ。

 元捕虜と元日本兵が「ごめんなさい」「ありがとう」と言葉を交わし、ともに時間を過ごし、親しみの感情が生まれる場面をホームズさんは繰り返し見てきた。心の傷やわだかまりは、上皇さまの言葉一つですぐに解決するほど簡単ではないと感じつつ、「あの言葉や誠実なお姿が、いつか来る『癒やし』につながっているはずです」と確信している。

 和解の旅で日本に来た際、上皇后美智子さまに皇居・御所に招かれたこともある。美智子さまは元捕虜との交流の様子を熱心に聞き、「イギリスと日本のために尽くしてくださってありがとう」と話されたという。

いまだに憎しみを持ち続ける子孫も

 元捕虜の多くが亡くなった今も、一部の子孫たちは日本への憎しみを持ち続けている。だからこそ、「戦争を忘れない」と示し続けることが大切で、「皇室が元捕虜たちの現状に関心を寄せてくださることがうれしい」とホームズさんは語る。

 今回の両陛下の訪英にも期待しているという。「若い世代に平和への思いを示してくだされば、和解の旅がなにか新しい形に発展するきっかけになるかもしれない」と考えている。ホームズさんは今年も元捕虜の子孫らと日本を訪ねる予定だ。【山田奈緒】

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