テレビ会議を行うカンボジアのフン・セン上院議長(左)とミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官=2024年5月、フン・セン氏のフェイスブックから

 人生100年時代と言われるようになり、政治の世界では「引退」が遠のいている。東南アジアでもベテランたちが元気だ。

 5月上旬、ミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官がテレビ会議の画面越しに笑顔で手を振っていた。その相手はカンボジアのフン・セン上院議長(71)だ。ミャンマーは2021年のクーデター以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)を含め国際社会で孤立を深めている。そんな中でミンアウンフライン氏が珍しく見せた笑顔に、フン・セン氏が40年近く首相として培ってきた影響力を感じた。

 フン・セン氏は23年の下院総選挙後に首相の座を長男のフン・マネット氏に移譲した後も政界からは引退せず、今年4月に上院議長に就任した。上院議長は国王不在時に国家元首代行を務める要職だ。フン・セン氏が院政を敷くことは想定内だったが、1年とたたずに外交の表舞台にも本格的に復帰した。

 テレビ会議では、懸案となっているミャンマーでの総選挙の実施について意見を交わし、国軍に拘束されている民主派指導者のアウンサンスーチー氏とのオンラインでの面会を求めたとされる。実現するかどうかはさておき、フン・セン氏にとってはミャンマー軍政との対話チャンネルを維持していると広く示せたこと自体が成果といえるだろう。

事実上の亡命生活からタイに帰国したタクシン元首相=2023年8月22日、AP

 そのフン・セン氏と近しい関係を築く隣国タイのタクシン元首相(74)も相変わらず活発だ。23年8月に事実上の亡命生活から15年ぶりに帰国し、汚職の罪などで実刑判決を受けたが、今年2月に仮釈放された。高齢などを理由にした措置だが、ミャンマーの民主派勢力と接触したり、マレーシアのアンワル首相(76)と面会したりと、何かと地元メディアをにぎわしている。かつての政敵にとって面白いわけはないが、本人に気にするそぶりはない。

 フン・セン氏もタクシン氏も、しばらくは一線から退くつもりはなさそうだ。東南アジアを見渡せば、他にもベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長(80)や、10月にインドネシア大統領に就任予定のプラボウォ国防相(72)もいる。いずれも時に「強権的」と評される人物ばかり。強烈なリーダーシップは頼りになる半面、後進育成や世代交代を阻むことになっている気がしてならない。

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