イタリアで開かれているG7サミット=主要7カ国の首脳会議。生成AIへの対応について、議論されます。
G7にローマ教皇が初めて参加。フランシスコ教皇、もともとAIのイノベーションを称賛する一方で、「人類が直面する課題でもある」と、国際ルールや規範作りを訴えてきた1人です。いま行われている会議で、世界の首脳にその必要性を説いているとみられます。
背景にあるのは、人類の予想をはるかに上回るAIの技術革新の速度です。
例えば、去年公開された『ChatGPT−4』。ITメディアなどの見立てでは、AIの性能にあたる数値(パラメーター数)が“100兆”ともいわれています。2018年の初期タイプが1億程度だったことを考えると、成長速度は、文字通り桁違いです。
今年発表された動画生成AI『Sora』も衝撃的でした。簡単なイメージを伝えるだけで、本物と見分けがつかないほどの動画が瞬時にできてしまいます。
これまで、生成AIは、“アメリカ一強”状態でしたが、そこに肩を並べようとしているのが中国です。
先週、中国のIT大手企業が公開した動画生成AI『KLING』。使い方は、Soraと同様、簡単な指示を入れるだけです。
そのクオリティの高さには「Soraに匹敵する」と世界中が驚いたほど。中国の生成AIがここまでの評価を得るのは初めてです。ただ、その地盤は、中国が長年かけて注力して築き上げたものです。10年以上前から、習近平政権は、AI分野で覇権をとることを目指してきました。
中国は、AIによる共産党批判などを防ぐため、政府の承認を受けないと生成AIのサービスを提供できないようハードルを設けました。それでも、去年夏、承認を受けた企業は8社だったのが、今年3月末時点で117社まで増えています。
中国のAIは、開発だけでなく、実用化の面でも世界に先駆けています。
天津市は、中国が推し進めるスマートシティの1つです。
一見、普通の街並みですが、インフラは、ほぼすべてがAIで管理されています。渋滞が起こらぬよう自動で切り替わる信号機。街中にしかけられた5000台のカメラを常時監視するのもAI。もし、何か異常が検知されると、ドローンが現場に急行します。自動で行なうのは飛行だけでなく、現場の状況を目視し、通報が必要かの判断も自分で行います。
それだけではありません。任務終了後に戻ってくるのも、充電するのも、全部AIが行うという事前の触れ込みでした。
しかし、戻ってきて、自動で着陸と思いきや、地面に落下。少しすると、係員らしき人が回収していきました。たまに、こういうことも起きるそうです。
まだ、街の機能は発展途上ですが、すでに15万人が暮らしています。AIが管理する都市。構想自体は世界中にありますが、それがすでに社会の一部になっているのは中国だけです。
こうしたスマートシティは、中国住宅建設省が管轄するものだけで、全国に290都市あるそうです。
そこから得られる膨大な量のビッグデータ。これはいわば、AIが得られる“経験値”の量に他なりません。そこに関しては、中国は世界最大のアドバンテージを持っていることになるのかもしれません。
◆中国のAIは、どれくらいすごいのでしょうか。内閣府のAI戦略会議座長で、東京大学大学院の松尾豊教授に聞きました。
松尾教授は「いまや、アメリカと中国のAI技術は、世界の2トップを走り、他国がもはや追いつけないレベルに達している」と話します。
松尾先生によりますと、AIのすごさは『データ量×GPU(半導体)×エンジニア(人材)』という指標ではかることができるといいます。
これを現在の中国にあてはめてみます。
【データ量】
国家プロジェクトの取り組みなどにより、膨大なデータ量を取得可能となっています。
【半導体】
中国は2022年から、アメリカによる本格的な半導体規制を受け、半導体開発で遅れをとっていましたが、現在は、自力で高性能の半導体を開発したそうです。
【人材】
ここ10年で世界トップクラスのエンジニアが国内外で育ち、集まってきています。
国家レベルで開発を進めている中国のAI技術は、今後もすさまじい発展を遂げていくといいます。
中国のAIは、今後、脅威になっていくのでしょうか。
松尾教授は「中国に限らず、AIが、今後、進化していけば、他国の軍事・生活インフラをハッキングしたり、高度なフェイク情報によって世論操作が可能になっていく。AIを1つの国だけで規制しても、このネット世界において意味がない。だからこそ、“核を管理するように”(例えばIAEAのように)グローバルな規制が必要だが、中国は、現在、AIのルール作りの場にほとんど参加していない。高い技術を持った中国のAIが悪用される可能性も考えると、やはりリスクとなる可能性がある」といいます。
松尾教授は「例えば、自動車が生まれ普及していく過程のなかで、事故を防ぐため、安全性の基準や速度規制などルール作りが進められてきた。危険性よりも利便性が高まったからこそ、世界中に普及したともいえる。AIも同じで、ルールを作るからこそ、産業として発展することができる」と話します。
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